はじめて地方選挙に立候補する新人にとって、最初の壁は「名前を知られていない」ことです。現職の中には、議会での活動や地域での交流を通じて、名前や顔を知ってもらう機会を積み重ねてきた人もいます。新人は、そうした積み重ねがないところからのスタートになります。
しかも、告示前は「投票してください」とお願いすることができません。選挙運動ができるのは、告示日に立候補の届出が受理されてから投票日の前日までで、公職選挙法は、立候補の届出前に選挙運動をすること(事前運動)を禁じているからです。告示前にできるのは、政策や人柄を伝える政治活動です。
この記事では、知名度ゼロの新人が告示までに名前を知ってもらうための活動と、それぞれで気をつけたい公職選挙法の線引きを、手段ごとに整理します。
※2026年10月時点の情報です。選挙のルールは選挙や自治体によって細かな違いがあります。判断に迷うときは、必ず立候補する選挙の選挙管理委員会に確認してください。
新人の準備を1冊にまとめました
「政治経験なしの新人候補として戦う 地方選挙ハンドブック」(A4・全18ページ)を無料で配布しています。「知名度ゼロから名前を知ってもらう」の章や、告示前と選挙期間中でできることの早見表もあわせてご覧ください。
地方議員選挙では候補者の数が多く、有権者が一人ひとりの政策をじっくり比べる機会は限られがちです。どれだけ良い政策を持っていても、名前を見て「ああ、あの人か」と思い出してもらえなければ、選択肢に入りにくくなります。
地域の選挙の規模をつかむ参考になるのが、前回の選挙で最下位当選した人の得票数です。ただし、得票数と名前を知っている人の数は同じではなく、必要な票数も選挙ごとに変わります。当選ラインの調べ方は「何票取れば当選できる?前回の選挙結果から当選ラインを逆算する方法」で解説しています。
名前を知ってもらうには、一度に大きなことをするより、同じ人の目に何度も触れることが大切です。駅で毎週見かける、チラシで名前を読んだ、地域の集まりで話した、SNSで流れてきた。こうした接点が重なって、はじめて名前が記憶に残ります。
告示前の活動で一番気をつけたいのが、事前運動との線引きです。選挙運動とは、特定の選挙で、特定の候補者を当選させるために投票を得ようとする行為をいいます。告示前にこれを行うと、公職選挙法第129条の事前運動の禁止に触れるおそれがあります。
一方、政策を広めたり、支持を広げたりする政治活動は、告示前でも行えます。ただし、「投票してください」という言葉を使わなければ必ず大丈夫、というわけではありません。時期、内容、方法、活動の実態などから、特定の選挙での当選を目的とした働きかけと判断されることがあります。
政策の説明や日常の政治活動を通じて、結果として名前や顔を知ってもらうことはあります。ただし、政治活動という名目であっても、実態が特定の選挙に向けた当選目的の働きかけであれば、事前運動と判断されるおそれがあります。特に告示日が近づく時期は、チラシの内容や配り方、活動の規模・頻度にも注意が必要です。
公認を待っている時期の活動については「公認が出るまで何をする?立候補予定者が告示前にできる活動・できないこと」もあわせてご覧ください。
新人が告示前に取り組みやすい手段を5つ紹介します。どれか1つに絞るのではなく、組み合わせて「何度も目に触れる」状態をつくるのが基本です。
朝の駅前や交差点に立って、通勤・通学の人にあいさつをする活動です。同じ場所、同じ時間に毎週立ち続けると、「いつもいる人」として覚えてもらえるようになります。
立候補予定者が個人の政治活動で、本人の氏名や氏名を類推させる事項を表示したたすき・のぼりなどを使うことは、公職選挙法第143条の掲示規制により原則として認められていません。告示前に使う旗は、本人の名前や顔写真の入らない、政策テーマを伝える旗が基本です。道路で行う場合は道路使用許可、駅の構内や駅前広場では管理者の許可が必要になることがあります。旗の種類ごとのルールは「辻立ちの旗は何が使える?」、足を止めてもらう工夫は「駅頭・辻立ちで名前を覚えてもらうための極意」で解説しています。
「何を変えたいか」を1枚にまとめた政策チラシは、名前と考えを一緒に伝えられる道具です。駅頭での手渡しや、ポスティングで地域に配ります。
チラシは、地域の課題や政策の説明を中心に作ります。「私に投票してください」といった投票依頼は、告示前にはできません。また、「○○市議会議員選挙に立候補予定」のように特定の選挙名を示した文書を広く配ると、内容や時期によっては事前運動と判断されるおそれがあります。
家を訪ねて政治活動をすること自体が一律に禁止されているわけではありません。ただし、特定の選挙で投票してもらう目的で住居や商店などを戸別に訪問することは、公職選挙法第138条で禁止されています。投票依頼の言葉を使わなくても、訪問の目的やチラシの内容によっては違反となるおそれがあります。詳しくは「戸別訪問と個別訪問の違い」をご覧ください。
町会・自治会、PTA、商店会、地域の祭りや清掃活動などに参加し、地域の課題を直接聞く活動です。話を聞いた内容は、そのまま政策づくりの材料にもなります。
このとき注意したいのが寄附の禁止です。立候補予定者が選挙区内の人や団体に寄附をすることは、原則として禁じられています(公職選挙法第199条の2)。祭りへの寄付金、差し入れ、お祝いや香典も対象になります。本人が自ら出席する結婚披露宴でその場で渡す祝儀や、葬式・通夜に自ら参列して渡す香典は、通常一般の社交の程度を超えないなどの条件を満たせば罰則の適用が除外されます(第249条の2)。ただし、これは寄附禁止そのものの例外ではありません。供花や花輪、代理人に持たせる香典などは対象外にならないため、判断に迷うものは選挙管理委員会に確認しましょう。
通常の自己紹介や政治活動に伴う名刺交換はできます。ただし、名刺であっても、特定の選挙での投票依頼を目的としたものや、告示日が近い時期に不特定多数へ大量に配るものは、事前運動と判断されるおそれがあります。選挙期間中に選挙運動として名刺を配ると、文書図画の頒布の規制(第142条)に触れるおそれがあります。
10人前後の小さな集まりで、自分の考えを話し、参加者の声を聞く活動です。参加した人が家族や知人に話してくれることで、名前が広がっていきます。参加者への食事や交通費の提供は、寄附の禁止(公職選挙法第199条の2)に触れるおそれがあります。会費制にする場合も、会費の額や費用負担の実態によって判断が分かれるため、会費制なら必ず問題ないというわけではありません。湯茶や通常用いられる程度の茶菓であれば、一般に問題ないとされています。会場の選び方や飲食・告知のルールは「告示前のミニ集会・地域懇談会の開き方」で解説しています。
新人に足りないのは、実績よりも「どんな人か」の情報です。SNSやショート動画は、話し方や表情、地域への思いを短時間で伝えられ、直接会えない人にも届きます。
告示前のSNSでも、特定の選挙で投票を求める発信はできません。「次の選挙で私に一票を」のような明確な投票依頼は避けてください。「応援よろしくお願いします」なども、投稿の内容や前後の文脈によっては投票依頼と判断されるおそれがあります。政策、地域の課題、活動の様子、立候補を考えた理由を発信するのが基本です。SNSの準備の進め方は「政治家・候補者のためのSNS戦略マニュアル」にまとめています。
なお、2027年3月1日から、インターネット等を使った選挙運動のルールを見直す改正公職選挙法が施行されます。電子メールの規制の見直しや、AIで作成・加工した一定の画像・映像への表示義務などが含まれます。2027年春の選挙に向けて発信する方は、施行後のルールも確認してください。
本人の名前や顔写真が入った政治活動用ポスターは、名前を知ってもらうのに効果的です。ただし、任期満了による選挙では、任期満了日の6か月前から選挙の期日まで、本人の氏名や写真など氏名を類推させる事項を表示した個人の政治活動用ポスターや、後援団体の名称を表示した政治活動用ポスターは、選挙区内に掲示できなくなります(公職選挙法第143条)。任期満了によらない選挙では、禁止期間の始まりが異なります。それまでに掲示していたものも、期限までに撤去が必要です。掲示できる期間でも、ベニヤ板などでの裏打ちの禁止や、掲示責任者・印刷者の氏名と住所の表示など、別のルールがあります。
2027年春の統一地方選挙で任期満了を迎える選挙では、2026年の10月末ごろからが掲示禁止の期間です。いまから準備を始める新人は、ポスター以外の手段で名前を知ってもらう計画を立てましょう。期限の詳しい考え方は「政治活動用ポスターは10月末から貼れない」をご覧ください。
禁止期間中でも、政党その他の政治団体(後援団体を除く)が実際に開く演説会の告知ポスター(いわゆる2連・3連ポスター)は、個人のポスターとは異なる扱いを受ける場合があります。ただし、2連・3連という形だけで認められるわけではなく、特定の立候補予定者を過度に目立たせるものは、個人のポスターとして規制されるおそれがあります。載っている人が立候補した場合は、告示日のうちに撤去が必要です。作る前に必ず選挙管理委員会に相談してください。
名前を知ってもらう活動は、思いついたときにやるより、週ごとの予定として決めておくほうが続きます。たとえば次のような形です。
あわせて、会った人や話した人を名簿にまとめておきましょう。「会ったことがある」「応援すると言ってくれた」「周りにも声をかけてくれる」と段階を分けて管理すると、どこに力を入れるべきかが見えてきます。名簿には個人情報が入るため、何に使うかをはっきりさせ、見られる人を限定して管理しましょう。名簿の作り方は「初めての選挙戦、名簿はどうやって集め、作るのか?」で解説しています。
2027年の統一地方選挙までの日程は「2027年統一地方選挙はいつ?」で確認できます。告示まで半年を切っていても、駅頭・チラシ・SNSで名前を知ってもらうことはできます。
名前を知ってもらう活動に加え、はじめて立候補する方が最初に知っておきたいことを、1冊のハンドブックにまとめました。
「政治経験なしの新人候補として戦う 地方選挙ハンドブック」
A4・全18ページのPDFです。フォームにご入力いただくと、その場ですぐにダウンロードできます。陣営の方と共有してお使いください。
A. 立候補を考えていることを伝えること自体は、一般に政治活動の範囲とされています。ただし、「次の市議選では私に一票を」のように、特定の選挙での投票を求めると事前運動のおそれがあります。
A. 特定の選挙での投票依頼と受け取られる表現は避けるのが無難です。記載内容に迷うときは、作る前に選挙管理委員会に確認しましょう。
A. 立候補予定者が個人の政治活動で、本人の氏名や氏名を類推させる事項を表示したたすき・のぼりなどを使うことは、公職選挙法第143条の掲示規制により原則として認められていません。告示前は、名前や写真の入らない政策旗などを使い、話す内容も事前運動にならないよう注意しましょう。
A. 政治活動への応援を呼びかける意味で使うこともありますが、投稿の内容や前後の文脈によっては、特定の選挙での投票依頼と判断されるおそれがあります。告示前は、政策や活動の報告を中心に発信するのが安心です。
A. 告示まで時間が短くても、駅頭、政策チラシ、SNSなど、できることはあります。残りの期間で何をするかを週ごとに決めて、すぐに動き始めましょう。
名前を知ってもらう時期ほど、写真や動画で人柄を伝えることが大切になります。株式会社ハレフルは、公職選挙法を踏まえ、つど選挙管理委員会にも確認しながら、政治活動の時期のSNS・ショート動画の企画から撮影・編集までをお手伝いしています。選挙期間中は、撮影したその日のうちの納品にも対応します。
サービスの詳細は「SNS戦略サポート」「ショート動画制作」をご覧ください。ご相談はお問い合わせフォーム、またはお電話(03-6712-7626)で承ります。
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今から投票日までにやることを時期ごとにまとめた「2027年統一地方選挙 立候補準備の完全ガイド」もあわせてご覧ください。