「戸別訪問は禁止」と聞いて、支援者に会いに行くことすら控えている立候補予定者は少なくありません。一方で、「アポを取った個別訪問ならOK」と、何でも大丈夫だと思い込んでしまうケースもあります。
公職選挙法138条が禁止しているのは、選挙に関して投票を得る(得させる・得させない)目的で、家々を回る戸別訪問です。人に会いに行くこと自体が、すべて禁止されているわけではありません。ただし、法律上「アポを取れば適法」というルールはありません。選管の資料では、街頭などで出会った人に投票を依頼する「個々面接」と、禁止される「戸別訪問」を区別していますが、アポを取って特定の人を訪ねる行為がすべて個々面接にあたるわけではありません。
この記事では、戸別訪問と個別訪問(特定の人に会いに行く訪問)の違いと、告示前・選挙期間中にどこまでできるかを整理します。戸別訪問の禁止の全体像や、区政レポート配り・後援会の勧誘の線引きは、戸別訪問はどこから違法?の記事で解説しています。
※2026年10月時点の情報です。違反かどうかは個別の事情で判断されます。迷ったら必ず各選挙管理委員会に確認してください。
戸別訪問にあたるかは、票を得るなどの目的に加え、訪問先の選び方、何軒も回る予定だったか、時期、活動の全体像から判断されます。実際に何軒訪ねたかだけで決まるわけではありません。一方、政策の相談や意見交換のために特定の相手を訪ねる通常の政治活動まで、一律に禁止されているわけではありません。
| 訪問のしかた | 目的 | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 家を順番に訪ねて回る | 投票のお願い、名前を売り込んで票につなげる | 禁止(告示前でも後でも) |
| 家を順番に訪ねて回る | 政策アンケート、意見を聞く、後援会の入会案内など | 名目だけでは判断されない。実態が票集めなら禁止 |
| アポを取って、特定の人に会いに行く | 政策の相談、意見交換 | 通常の政治活動としてなら可能な場合がある。アポの有無だけでは判断できない |
| アポを取って、何軒も順番に回る | 投票のお願い | アポがあっても戸別訪問とみなされるおそれ |
| アポを取って1人に会う(告示前) | 特定の選挙での投票をお願いする | 戸別訪問でなくても、事前運動(129条)の違反になるおそれ |
まとめると、禁止されているのは「票を得る目的」の戸別訪問です。政策説明や意見交換など、政治活動としての訪問はやり方次第でできます。ただし、「投票してください」と言わなくても、特定の選挙での当選を目的とした働きかけと認められれば違反のおそれがあります。会話の内容だけでなく、目的・時期・相手・訪問のしかたが見られます。選挙が近づくほど、また本人が回るほど、「本当は票集めでは」と疑われやすくなります。
なお、告示前は「事前運動の禁止(129条)」、告示後も続くのが「戸別訪問の禁止(138条)」と、2つのルールを分けて考えると整理しやすくなります。
何軒も回るつもりで訪問を始めた場合は、1軒目で終わったときや、日を分けて回ったときにも問題となりえます。「1日1軒ずつなら大丈夫」とは言えません。反対に、道で偶然会った人と話すことなどは、行為の態様によって判断が分かれます。
また、かつては親族や知人への訪問を例外とする規定がありましたが、現在は削除されています。親しい人の家だから例外、ということはありません。
特定の人とアポを取り、政策の相談や後援会活動への協力のお願いに伺うことは、ふだんの政治活動として一般に行われています。たとえば次のような訪問です。
ただし、次の場合は注意が必要です。
つまり、アポは「目的が政治活動であること」を示す材料の一つにすぎません。何を話したか、どう回ったか、時期はいつかで判断されます。「政策アンケート」「後援会入会のお願い」といった名目でも、実態が特定の選挙で票を得るための訪問なら、事前運動や戸別訪問の問題が生じます。
| 場面 | 目安 |
|---|---|
| 支援者宅に、後援会の会報を手渡しに行く | 通常の政治活動として可能な場合がある。特定の選挙での投票依頼と評価される働きかけは避ける |
| 地域を回って政策アンケートをお願いする | アンケート自体は可能な場合があるが、実態が特定の選挙での票集めを目的とする活動なら違反のおそれ |
| 後援会の入会案内で家々を回る | 入会の案内にとどめる。「選挙で応援を」と言えば戸別訪問・事前運動のおそれ |
| 年末年始のあいさつ回り | 選挙区内の家々を回るあいさつ回りは、選挙が近いほど票集めと疑われやすい。避けるのが無難 |
| 知人に個別に会って政策を説明する | 一般に可能。投票依頼はしない |
あいさつ回りで手土産を持っていくのは、別の問題(寄附の禁止)にもなります。候補者や立候補予定者が選挙区内の人や団体に寄附することは、選挙の有無にかかわらず原則禁止です(親族への寄附などの例外あり)。後援会からの寄附にも別の制限があります。
また、戸別訪問にあたらない配り方でも、配る文書の内容や時期によって別の規制がかかります。会報、政策チラシ、選挙運動用ビラは同じ扱いではありません。
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立候補の届出が受理されてから投票日の前日までは選挙運動ができる期間になりますが、戸別訪問の禁止はそのまま続きます。選挙期間中にできる・できない訪問の目安は次のとおりです。
| 場面 | 告示前 | 選挙期間中 |
|---|---|---|
| 通常の政策相談・意見交換 | 可能 | 可能 |
| 特定の選挙での投票依頼(個々面接) | 事前運動として禁止 | 認められた方法なら可能 |
| 票を得る目的で家々を回る(戸別訪問) | 禁止 | 禁止 |
| 街頭で偶然会った人への投票依頼 | 事前運動のおそれ | 可能 |
| 電話による投票依頼 | 事前運動のおそれ | 可能(時間帯などに配慮) |
| SNSでの投票の呼びかけ | 事前運動のおそれ | 可能(電子メールは送信者や送信先に制限あり。投票日当日は不可) |
「家々を回って頼む」のではなく、相手が来る場(街頭・演説会・事務所)や、電話・SNSなど法律で認められた方法で届けるのが基本です。SNSと電子メールでは規制が異なる点にも注意しましょう。
支援者が善意で「近所を回っておくよ」と言ってくれることもあります。誰がやっても戸別訪問は禁止なので、支援者にもルールを伝えておくことが大切です。
Q. 相手から「家に来てほしい」と呼ばれた場合は?
A. 招かれて1人を訪ねること自体は一般に問題になりにくいですが、そこで投票をお願いすれば、告示前なら事前運動のおそれがあります。招かれた家を足がかりに近所を回るのは避けましょう。
Q. 1日1軒だけなら戸別訪問になりませんか?
A. 日を分けても、票を得る目的で家々を回る活動の一部と判断されれば問題となりえます。軒数ではなく、目的と全体の行動で判断されます。
Q. 選挙期間中、親しい知人の家に行って投票をお願いしてもいい?
A. 親しい人への訪問を例外とする規定は現在ありません。家を訪ねるのではなく、電話や、相手が事務所や演説会に来たときにお願いしましょう。
Q. 後援会名簿の人を1人ずつ訪ねてもいい?
A. 会報の手渡しなど政治活動の範囲ならできる場合がありますが、名簿の順に回って投票を頼めば戸別訪問・事前運動のおそれがあります。
Q. ポスティングで家を回るのは戸別訪問ですか?
A. 面会を求めずに郵便受けに入れるだけなら、一般に戸別訪問とは扱いが異なります。ただし、配る文書の内容や時期には別の規制(文書図画の規制など)があります。
Q. 会社の朝礼でのあいさつはどうですか?
A. 会社から招かれ、通常の政治活動として政策を説明することが直ちに戸別訪問になるわけではありません。一方、票を得る目的で会社や事業所を回る行為は禁止対象となりえます。告示前の投票依頼には、事前運動の問題も生じます。
※2026年10月時点の情報です。違反かどうかは個別の事情で判断されます。具体的な活動は各選挙管理委員会の案内を確認し、判断が難しい場合は公職選挙法に詳しい弁護士への相談も検討してください。
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