初めて選挙に挑む人が、ほぼ必ず直面するのが「名簿」の問題です。
電話かけもできない。スタッフにも連絡できない。後援会らしい活動もできない。そう考えると、「名簿がない=何も始められない」と感じてしまうのは無理もありません。
しかし、実際の選挙現場を見ていると、この認識は現実と少しずれており、むしろ、名簿ゼロからスタートしている人のほうが圧倒的に多く、最初から十分な名簿を持っている候補者は、地盤や後援会がすでに整っている限られたケースに過ぎません。
ここで一度考え方を切り替える必要があります。
名簿は、選挙活動を始めるための前提条件ではなく、活動を積み重ねた結果として生まれるものなのです。
かつては、名簿は今よりもはるかに集めやすいものでした。
その理由は、町内会、自治会、業界団体、PTA、後援会など、地域や組織の中に「名簿文化」が存在していたからで、さらに、学校や卒業生を通じた名簿も、選挙では重要な入口でした。
母校の同窓会名簿、卒業アルバム、OB・OG会の連絡網。「同じ学校の出身」というだけで、連絡を取ることに大きな違和感はありませんでした。当時は、「選挙だから」「地域のためだから」という理由で、連絡先が共有されることも珍しくなく、名簿は「集めるもの」というより、「すでにあるもの」に近い存在だったと言えます。
現在、名簿が集めにくくなった背景には、明確な変化があります。
それは、個人情報保護に対する意識の高まり、地域コミュニティの変化、政治活動への距離感など、これらがが重なりかつて当たり前だった名簿の流通はほとんど見られなくなりました。
学校や卒業生名簿も、本来の目的以外で使うことに強い慎重さが求められるようになり、そもそも名簿自体が更新されていないケースも増えています。この変化は、「選挙がやりにくくなった」というよりも、社会全体の価値観が変わった結果だと捉えるべきでしょう。
では、名簿が集めにくくなった今、選挙はどうやって回っているのでしょうか。答えは意外とシンプルで、昔と同じやり方をしていないということです。
今の選挙では、「最初から大量の名簿を持つ」ことを前提にしておらず、活動を通じて接点をつくり、その中で少しずつ名簿を育てていく。名簿は準備段階で完成させるものではなく、活動の途中で増えていくものになっています。
名簿ゼロの状態で、最初に必要なのは大量の連絡先ではなく必要なのは、最初の1件目です。この1件目は、特別な支援者や有力者である必要はありません。
● 家族、親族、学生時代の友人、前職の同僚、地域で顔見知りの人。
● すでに一定の信頼関係がある人が、自然な起点になります。
この段階で重要なのは、「投票してください」「手伝ってください」とお願いすることではなく、「これから政治活動をしていく」「その過程を報告してもいいか」と、事実を共有することです。このやり取りそのものが、名簿の最初の1件目になります。
名簿が少ないと、「何もできない」と感じてしまいがちですが、実は名簿がなくても成立する活動は数多くあります。
● 地域を歩いてあいさつをする。
● 商店街や駅前で顔を覚えてもらう。
● 少人数でもいいから、意見交換の場をつくる。
これらの活動は、大量の名簿を前提とせず、重要なのはこうした活動そのものが、名簿を生むきっかけになるという点です。
現代の名簿づくりで欠かせないのが、「預かる」という考え方です。
・なぜ連絡先が必要なのか。
・どのような目的で使うのか。
・必要がなくなれば、いつでも止められること。
これらを説明したうえで、納得して預からせてもらう。この姿勢があるかどうかで、相手の受け止め方は大きく変わります。名簿は、信頼の延長線上にしか存在せず、この前提を外してしまうとどんな手法も長続きしないのです。
「名簿が少ないと電話かけができないのではないか」という不安もよく聞かれます。しかし現在の電話かけは、量よりも関係性が重視される時代です。
すでに接点のある人、協力の意思を示してくれた人、紹介でつながった人。こうした相手への連絡は、件数が少なくても、話を聞いてもらえる確率が高くなります。名簿が少ない状態だからこそ、「誰に、何のために連絡するのか」が明確になり、結果として活動の質が上がるケースも少なくありません。
名簿ゼロの状態で、スタッフが集まるのかと不安に思う方も多いでしょう。
しかし実際の現場では、スタッフやボランティアは名簿からではなく、人が関わっている「場」から生まれることがほとんどです。
最初は一人で十分です。
相談に乗ってくれる人、少し手伝ってくれる人。
その一人が、次の一人を連れてきます。
名簿の話になると、公職選挙法との関係を不安に感じる方も少なくありません。
「これって違反にならないのか」「知らないうちに問題にならないか」そう感じるのは、とても自然なことです。まず大切なのは、公選法が問題にするのは、名簿を持っていること自体ではなく、その使い方だという点です。
現場でトラブルになりやすいのは、本人の意思が確認できていない情報を使うこと、目的を説明せずに連絡を取ること、選挙の時だけ突然使うことです。
逆に言えば、この記事で書いてきたように、活動の中で接点をつくり、説明したうえで預かる形は、公選法の考え方とも相性が良いと言えます。
重要なのは、説明できない集め方をしないこと、グレーを攻めないことです。名簿は効率化の道具ではなく、信頼の延長線にある連絡手段だと考える、このスタンスを守っていれば過度に恐れる必要はありません。
名簿ゼロの状態は、決して不利ではありません。
むしろ今の時代においては、最も健全で自然なスタート地点です。
関係性を一つずつ積み上げ、信頼の結果として名簿が残っていく。
この流れを理解していれば、名簿は壁ではなくなります。
選挙活動は、名簿から始まるのではありません。
行動から始まり、関係性が生まれ、その延長線上に名簿が残ります。最初の1件目を大切にし、そこから丁寧につなげていくこと。それが、初めての選挙戦を現実的に進めるための最も確かな方法となるのです。
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