「後援会の事務所を借りたいけれど、契約は自分の名前でいいの?」「家賃は個人の口座から払っていい?」「事務所に来てくれた方に、お茶は出していいの?」。立候補を決めると、事務所まわりの細かな疑問が次々に出てきます。
事務所には、ふだんの政治活動に使う「平時の事務所(後援会事務所など)」と、告示日から使う「選挙事務所」の2種類があり、契約・お金・看板・届出のルールがそれぞれ違います。
この記事では、2027年4月の統一地方選挙で市議・区議・県議選に挑む方に向けて、物件の借り方から、契約名義、家賃の支払い元、看板と選管への届出、来訪者の迎え方、選挙後の返し方までを、時系列で整理します。
※2026年10月時点の情報です。細かな運用は選挙管理委員会ごとに異なります。迷ったら必ず各選管に確認してください。
まず、2つの事務所の違いを押さえておきましょう。同じ物件を使い続ける場合でも、告示日を境に「選挙事務所」としてのルールが上乗せされると考えるとわかりやすくなります。
| 項目 | 平時の事務所(後援会事務所など) | 選挙事務所 |
|---|---|---|
| 使う時期 | いつでも(政治活動) | 立候補の届出後〜投票日前日まで(選挙運動) |
| 契約名義の例 | 本人、または後援会の代表者など | 候補者本人など(実態に合わせる) |
| 家賃の会計 | 後援会(政治団体)の会計 | 選挙運動費用(出納責任者が整理) |
| 設置できる数 | 一律の上限なし(看板の枚数に制限あり) | 候補者1人につき原則1か所 |
| 選管への手続き | 看板を出すなら証票の申請 | 設置したら直ちに設置届 |
| 看板 | 150cm×40cm以内・1事務所2枚まで・証票が必要 | 350cm×100cm以内・合計3つまで+ちょうちん1個 |
| 家賃の報告先 | 政治資金収支報告書(後援会などの政治団体) | 選挙運動費用収支報告書(出納責任者) |
不動産会社には、最初に「政治活動の事務所として使う」ことをはっきり伝えましょう。政治・宗教目的の利用を断る物件は少なくありません。あとから発覚すると契約違反を問われることもあります。
あわせて、次の点を内見の段階で確認しておくと、選挙前にあわてずに済みます。
後援会の会計で家賃を払う予定なら、政治団体としての設立届が済んでいるかも先に確認しましょう。届出前の政治団体は、政治活動のための寄附を受けたり支出したりできません。
契約名義は、大きく「本人名義」か「後援会(政治団体)名義」のどちらかです。後援会は法人格を持たないことが多いため、実務では代表者などの個人が契約者になり、使用者を「○○後援会」とする形もよく見られます。どの形にするかは、家賃をどの財布から払うかとセットで決めましょう。
あわせて契約書では、政治活動・選挙事務所としての使用、看板の設置範囲、夜間・早朝の利用、解約条件、原状回復の範囲を確認し、必要なら特約に入れてもらいましょう。
注意したいのが、知り合いの会社の空き店舗をタダや相場より安く借りるケースです。会社・労働組合などの団体は、政党・政治資金団体以外への政治活動に関する寄附が政治資金規正法で禁止されており、候補者個人だけでなく一般の後援会への寄附もできません。事務所の無償提供や、相場より著しく安い賃料での貸与も、寄附にあたるおそれがあります。会社所有の物件を使うときは適正な賃料で契約し、契約書と支払いの記録を残しましょう。
後援会事務所の家賃は、後援会(政治団体)の口座から払い、政治資金収支報告書に「事務所費」として記載するのが基本です。本人の個人口座と後援会の口座が混ざると、収支報告のときに整理が大変になります。本人が立て替えたり個人名義で契約したりする場合は、寄附なのか立替金なのかを整理し、収入・支出の両面で記録しておきましょう。
契約時には家賃のほか、敷金・礼金・仲介手数料・保証料もかかります。戻ってくる敷金と戻らない費用では会計上の扱いが変わるので、分けて記録しておきましょう。
個人から事務所を無償で借りた場合も、お金が動いていなくても「寄附」として扱われることがあります。自宅の一部を事務所にする場合や、親族の物件を借りる場合の記載方法は、事前に選管に確認しておくと安心です。
現職議員の場合は、政務活動費から按分して支払える自治体もあります。ただし充てられるのは、各議会の条例・使途基準で認められた政務活動に必要な部分だけです。後援会活動・政党活動・選挙運動・私的利用にかかる部分は対象外で、兼用の事務所では利用実態を記録し、議会が定める按分方法と証拠書類の要件に従う必要があります。対象になるかどうかや按分の考え方は議会ごとに大きく異なるため、必ず議会事務局の手引で確認しましょう。なお、選挙事務所として使う期間の家賃に政務活動費を充てることはできません。
平時の事務所に、候補者の名前や後援会の名称を書いた立札・看板を出すときは、公職選挙法143条16項・17項のルールに従う必要があります。主な条件は次のとおりです。
出せる看板の総数も、選挙の種類ごとに決まっています。代表的な例は次のとおりです。
| 選挙の種類 | 候補者等の事務所用 | 後援団体の事務所用 |
|---|---|---|
| 市議・区議 | 6枚 | 6枚 |
| 市長 | 6〜10枚(市によって異なる) | 6〜10枚 |
| 都道府県議 | 6枚 | 6枚 |
| 町村長・町村議 | 4枚 | 4枚 |
| 知事 | 都道府県によって異なる | 都道府県によって異なる |
証票には有効期限があります。期限や更新の時期は自治体・選挙の種類によって異なり、統一地方選の前後に切り替わる例もあります(例:堺市は現在の証票の期限を2026年10月31日としています)。現職の方は、手元の看板の証票の期限と更新手続を、この機会に確認しておきましょう。
また、看板は告示前に出したものなら選挙期間中もそのまま掲示できますが、選挙期間中に新しく取り付けることはできません。看板の新設は告示前に済ませておきましょう。なお、駅や街なかに貼る政治活動用ポスターは、看板とは別に「任期満了6か月前から禁止」のルールがあります。
選挙事務所を設置できるのは、候補者(または推薦届出者)です。選挙運動は立候補の届出から始まるため、選挙事務所としての開設も届出のあとになります。告示前でも、物件の契約、備品の搬入、看板の製作といった立候補の準備はできます。ただし、届出前にその場所を拠点に投票依頼などの選挙運動を行うことはできません。選挙事務所の看板を掲げて開設するのは、立候補の届出後です。
設置届は告示日にすぐ出せるよう、設置者・所在地・必要書類を事前に選管の手引で確認し、準備しておきましょう。
事務所の数は、市議・区議・県議選などでは候補者1人につき1か所です。「○○連絡所」と名前を変えても、選挙運動の事務をしていれば選挙事務所とみなされるおそれがあります。
選挙事務所を表示するためのポスター・立札・看板の類は、350cm×100cm以内で合計3つまで、ちょうちんは1個まで掲示できます。平時の看板より大きく出せるので、告示日の朝に掛け替えられるよう準備しておきましょう。
投票日当日は、投票所の入口から300m以内にある選挙事務所は閉鎖するか、前日までに300mの外へ移す必要があります。駅前の便利な物件でも、すぐ近くに投票所(小学校や公民館など)があると、投票日に事務所を使えません。物件選びの段階で前回選挙の投票所を参考にしつつ、今回の選挙の投票所の位置を選管に確認しておきましょう。
ふだんの後援会事務所を選挙事務所として使うケースは多くあります。その場合は、告示前に次の4点を整理しておきましょう。
このほか、選挙運動のための休憩所を別に設けることは禁止されています。事務所の当日の進め方は、出陣式・事務所開きの記事で詳しく解説しています。
選挙事務所の家賃は選挙運動の費用です。選挙運動に関する支出は、原則として出納責任者(またはその文書による承諾を得た人)しか行えず、すべて選挙運動費用収支報告書に、事務所の借料は「家屋費」などの該当する費目で記載します。
ただし、告示前の選挙事務所の借り上げ交渉など「立候補準備のための支出」は、まだ出納責任者がいないため、本人などが支払うことができます。このうち候補者や出納責任者になった人が支払ったもの(またはこれらの人と意思を通じて支払われたもの)は選挙運動費用に含まれ、法定制限額の対象になります。支出日・支払者・用途・領収書を記録しておき、出納責任者が就任後に整理して帳簿に記載します。
| ケース | 扱いの目安 |
|---|---|
| 後援会事務所を、選挙期間中だけ選挙事務所として使う | 選挙事務所として使った期間分の扱いを選管に確認 |
| 個人から物件を無償で借りた | 寄附(収入)と支出の両方として記載が必要。評価額や記載方法は選管に確認 |
| 候補者の自宅を選挙事務所にした | 通常の生活費は選挙運動費用から除かれるが、選挙のために追加した設備・回線などは計上が必要な場合あり |
| 会社所有の物件を無償で借りた | 会社による寄附にあたるおそれ。相場の賃料で契約を |
なお、選挙事務所の家賃は公費負担の対象外で、陣営が適法に集めた資金から支払う必要があります。選挙全体の自己負担額は、別記事の試算を参考にしてください。
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選挙事務所には、支援者や近所の方、陣中見舞いの方が次々に訪れます。ここでいちばん気をつけたいのが飲食物の提供です。公職選挙法139条は、選挙運動に関して飲食物を提供することを、誰に対しても禁止しています。
| 出してよいもの | 出してはいけないもの |
|---|---|
| お茶・コーヒーなどの湯茶 | お弁当・料理・軽食 |
| お茶に添える程度のお菓子(せんべい、まんじゅう、みかんなど) | お酒・ビール |
| 持ち帰り用のお菓子や手土産 |
禁止は「候補者側から出す」場合だけではありません。支援者が激励のためにお酒やお弁当を事務所に持ってくることも違反になります。差し入れを受けたときは、丁寧にお断りするよう、受付のスタッフに事前に伝えておきましょう。
選挙運動に従事する人と、労務者(事務作業などを担う人)には、上限の範囲内でお弁当を出せます。数量の総枠は45食(15人分×3食)×選挙運動期間の日数で、たとえば一般の市議選(7日間)なら315食までです。1食・1日あたりの金額は、政令の基準に従って選管が定めます。必ず手引で確認してください。
なお、事務所スタッフへの報酬は誰にでも払えるわけではありません。選挙運動員への報酬は原則禁止で、事務員などに支払う場合は事前の届出や法定の上限があります。
投票日が終わったら、選挙事務所の看板やポスターなど、選挙運動に使った文書図画は遅滞なく撤去します。引き続き後援会事務所として使う場合は、有効な証票を貼った政治活動用看板を、法定の範囲内で掲示できます。
また、公職選挙法178条は、選挙後に当選・落選のあいさつを目的として当選祝賀会などを開くことを禁止しています。事務所に集まった支援者にお酒をふるまうお礼の会も避けましょう。一方で、ホームページやSNSなどインターネットを使ったお礼のあいさつは認められています。戸別訪問や印刷物の配布によるお礼はできません。
選挙運動費用収支報告書は、選挙の期日から15日以内に選管へ提出します。報告後に生じた選挙運動関係の支出は、支出した日から7日以内に追加で報告が必要です。選挙後の家賃や原状回復費は、契約内容や費用の性質に応じて、選挙運動費用と後援会の会計のどちらで扱うかを整理しましょう。請求書と領収書は、選挙前から事務所ごとにまとめて保管しておきましょう。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 告示の半年前ごろ(目安) | 政治団体の届出確認、物件探し(政治活動目的を伝える)、契約名義と支払い元の決定、看板の証票申請 |
| 告示の1〜3か月前 | 選挙事務所の場所の決定(投票所300m)、看板・ちょうちんの準備、解約日の決定 |
| 告示日 | 立候補の届出→選挙事務所の設置届、標札の掲示、看板の掛け替え |
| 選挙期間中 | お茶・お菓子以外の飲食物を出さない/受け取らない、運動員の弁当は上限内で |
| 投票日前日 | 投票所300m以内なら閉鎖または移転 |
| 選挙後 | 看板の撤去、祝勝会はしない、解約・原状回復、15日以内に収支報告 |
Q. 自宅を選挙事務所にしてもいいですか?
A. できます。選挙事務所として選管への設置届と標札の掲示が必要です。通常の生活に伴う家賃や光熱費は選挙運動費用から除かれる場合がありますが、選挙のために追加した設備や回線の費用は計上が必要になることがあります。
Q. 現職議員です。事務所の家賃に政務活動費は使えますか?
A. 使途基準で事務所費を認めている議会なら、議員活動に使う割合に応じて按分して充てられる場合があります。後援会活動・政治活動の分は後援会の資金から払い、選挙事務所として使う期間は対象外です。基準は議会ごとに異なるので、議会事務局に確認してください。
Q. 事務所の前にのぼり旗を立ててもいいですか?
A. 候補者名や後援会名を表示したのぼりは、平時の事務所では「立札・看板の類」として、枚数・大きさ・証票の制限を受けるのが一般的です。表示内容や掲示方法で扱いが変わることもあるので、掲示前に選管に確認しましょう。
Q. 敷金は選挙費用になりますか?
A. 戻ってくる敷金は、礼金や仲介手数料のような戻らない費用とは扱いが異なります。どちらの会計で、どう記載するかを分けて整理しておきましょう。
Q. 支援者がお弁当を差し入れてくれたら?
A. 選挙運動に関する飲食物の提供は誰からでも禁止なので、受け取らないのが原則です。お茶やお茶菓子程度であれば問題ありません。
Q. 後援会事務所を選挙後も使い続けられますか?
A. 使えます。選挙事務所の標札や選挙用の看板は撤去し、平時の看板は証票の有効期限内のものを掲示しましょう。
※2026年10月時点の情報です。看板の枚数、弁当の上限額、届出の様式などは選挙管理委員会ごとに異なります。2027年の選挙に際しては、最新の立候補予定者説明会資料・収支報告の手引で必ずご確認ください。
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