SNSを使用した政治活動はできる?禁止事項についてわかりやすく解説

インターネットの普及により、政治活動の発信手段も大きく変化しました。なかでもSNSは、政治家にとって重要な情報発信ツールとなっています。しかし、自由に発信できる一方で、選挙や政治活動においては一定の制限が存在します。特に、選挙期間中の投稿や表現には注意が必要です。

本記事では、公職選挙法との関係を中心に、SNSを活用した政治活動の注意点や禁止事項について、具体例を交えながらわかりやすく解説します。


SNSでの政治活動は原則自由

SNS上での政治活動は、表現の自由の観点から原則自由となっています。一般の有権者はもちろん、政治家や団体も広報や意見表明の手段として活用できます。ただし、全ての立場の人が同様に自由に行えるわけではありません。

以下で、特に注意が必要な公務員や未成年のケースについて見ていきましょう。


公務員の場合

公務員がSNSで政治的な発言をする際には、特に注意が必要です。なぜなら、国家公務員・地方公務員ともに、政治的中立性を守る義務があり、法律で政治的行為が制限されているからです。

例えば、政党や候補者を支持・反対する投稿、選挙運動に関わる呼びかけや署名活動などは、法律上の「政治的行為」に該当します。国家公務員法第102条や地方公務員法第36条では、具体的な禁止行為が細かく定められており、違反すれば懲戒処分や刑事罰の対象になることも。SNSの投稿も例外ではなく、たとえ勤務時間外やプライベートのアカウントであっても、政治的中立を損なう内容・行動であれば処分の対象になり得ます。

政治への思いを発信する前に、自身の立場と法的リスクをよく確認しておきたいところです。そして、発信を依頼する側の政治家も、相手の立場をよく理解したうえで行動することが求められるでしょう。


未成年の場合の制限

公職選挙法では、18歳未満の未成年者による選挙運動を一切禁止しています。※1
これはSNSでの投稿も例外ではありません。例えば、選挙運動期間中に特定の候補者を応援する内容を投稿したり、拡散したりした場合でも、それが投票を得る・得させることを目的とした「選挙運動」と判断されれば、法律違反に問われる可能性があります。投稿が善意からであっても、未成年者が選挙運動に関与すること自体が認められていないのです。

また、政治家や大人が未成年者に対して投稿を促したり、選挙運動への協力を求めたりする行為も違法と見なされるおそれがあります。政治家としては、選挙戦における応援の声はありがたいものですが、未成年との関わりについては、選挙活動の一環であるかどうかをよく判断し、慎重に対応することが求められます。

※1あくまでも選挙期間中の選挙運動に対しての制限であり、一般的な政治活動を禁止するものではありません。

 

SNSを使用した政治活動

 

SNSを利用した政治活動と選挙活動の違い

SNSを使ってメッセージを発信する政治家が増える一方で、「それって政治活動?それとも選挙活動?」と迷う場面も少なくありません。どちらも似ているように思えますが、法律上は明確に区別されています。この違いを理解せずに発信してしまうと、思わぬ違反につながるおそれがあるため注意しなければなりません。

以下で、両者の違いを詳しく見ていきましょう。


政治活動とは

政治活動とは、政策の普及活動、後援会活動、党勢拡大のための活動、演説など、政治的な目的を持った行為から、選挙運動にあたる行為を除いたものを指します。例えば、SNSを使って日頃の活動や考えを伝えることも政治活動として位置づけられます。

政治活動は一部制限はあるものの原則自由に行うことができ、選挙運動のように厳しい制限を受けることはありません。ただし、自由に行えるのはあくまでも「選挙運動にあたらない内容」のみ。当選を目的とする内容・行為とみなされれば、たちまち「事前運動」として公職選挙法違反に問われる可能性が出てきます。

具体例として、立候補者がSNS上で「立候補を表明しました。私に投票してください」と投稿した場合や、あるいは有権者が「次の〇〇選挙では××候補を当選させましょう」と呼びかける投稿を行った場合、選挙期間前の発信である以上、法律違反となり得ます。

選挙前にSNSで政治的なメッセージを発信すること自体は問題ありませんが、その発信が「当選する/当選させること」を目的とした内容かどうかが判断の分かれ目になります。選挙戦を見据えてSNSを活用する場合には、発信のタイミングや表現方法に十分注意し、法に触れないよう慎重に運用することが求められます。


選挙活動とは

選挙活動とは、特定の選挙において、特定の候補者の当選を目的に投票を呼びかけたり、逆に落選を狙って働きかけたりする行為を指します。このような選挙活動が認められるのは、公職選挙法によって定められた選挙期間中、すなわち「公示日(または告示日)から投票日の前日まで」に限られています。

SNSを利用した選挙活動についてもこのルールが適用されるため、選挙期間中であれば、前に出てきた「立候補を表明しました。私に投票してください」「次の〇〇選挙では××候補を当選させましょう」といった投票を促すメッセージを発信しても問題ありません。ただし、未成年者や公務員など、そもそも選挙活動が許されていない立場の人が発信した場合、重い処分対象となることもあるので注意が必要です。


SNSを利用した政治活動と選挙活動の違い

 

SNSを利用した政治活動の注意点

ここからは、SNSを利用した政治活動において特に注意すべきポイントを5つ紹介します。候補者自身はもちろん、応援する有権者にとっても重要な視点ですので、SNSを使う前にに必ず確認しておきましょう。


他社の権利を尊重し、侵害著作権や公職選挙法など法令を遵守する

SNSで発信する際は、公職選挙法をはじめとした各種法令を意識する必要があります。特に選挙期間中の投稿には、細かなルールが定められており、たとえ悪意のない投稿であっても違反となるケースがあります。

また、使用する画像や音楽、文章、肖像権やプライバシー権など、には著作権も関わってきます。許可なく第三者の権利を侵害すれば、著作物を使用すれば、トラブルや訴訟につながる可能性もあるため注意しましょう。SNSで何かを発信・拡散する場合は、「法的に問題ないか?」と一度立ち止まって考える姿勢が大切です。


情報操作やフェイクニュースを発信しない

SNSが政治に与える影響力が年々増す中で、深刻化しているのが「フェイクニュース」や「情報操作」です。これは日本に限った話ではなく、世界中で警戒されています。とりわけ象徴的な事例として知られているのが、2020年のアメリカ大統領選挙です。この選挙では、SNSを通じて「不正投票が行われた」といった根拠のない情報が大量に拡散され、結果として一部の支持者による議会襲撃事件(いわゆる「連邦議会議事堂襲撃事件」)にまで発展しました。後の調査で、拡散された投稿の多くが事実とは異なる内容だったことが判明しています。

日本でも選挙のたびに、SNS上で「〇〇候補は不正をしているらしい」「△△政党が裏でつながっている」など、真偽不明の投稿が散見されます。根拠があいまいであっても、怒りや共感を引き起こす内容であれば広く拡散され、受け手の判断に強く影響を及ぼしてしまうのです。

善意でシェアしたつもりでも、それが事実と異なれば、結果として情報操作に加担してしまうことにもなりかねません。したがって、SNSを政治活動や選挙運動で活用する際は、自分が発信する内容に注意することはもちろん、他人の発信であっても、うのみにしてそのまま拡散することは絶対に避けましょう。


健全な議論を心がける

SNSは、政策や政治的な信条について自由に意見を交わせる場であり、これこそが活用の大きなメリットです。ただし、議論が白熱しすぎて相手を攻撃するようなやりとりに発展してしまえば、かえって信頼を損なう結果になりかねません。

健全な議論を行うには、相手の意見に耳を傾け、異なる立場にも敬意を持って向き合う姿勢が求められます。これは候補者だけに限らず、SNS上で応援や意見を投稿する有権者にも同様です。SNSは発言する内容は全て見られているということを忘れず、誠実なコミュニケーションを心がけましょう。


関係者のSNS利用にも注意する

候補者本人がどれだけ注意を払っていても、スタッフや支援者の投稿が問題になることがあります。選挙期間中に、応援のつもりで特定の候補者を推す投稿をした結果、事前運動や誤情報の拡散と見なされてしまうケースも少なくありません。また、攻撃的な投稿や事実に基づかない発信が原因で、炎上や批判に発展することもあります。

関係者には、SNSを利用する際のルールや注意点を事前に共有し、必要であればガイドラインを設けることも有効です。政治活動はチームで行うものだからこそ、発信内容の統一性と信頼性を保つための「情報マネジメント」が欠かせません。


公務員は政治的中立に注意

公務員には、法律上「政治的中立性」が強く求められています。そのため、SNSで発言する際、特定の政党や候補者に肩入れしていると見なされる投稿は避ける必要があります。例えば、「◯◯さんに投票したい」「この政策を進める候補を応援する」といった発言は、公務員の立場では問題視されますし、程度によっては刑事罰の対象になることもあります。

仮に私的アカウントであっても、社会的には「公務員であるあなたの意見」として受け取られるため、一つひとつの行動に十分注意しましょう。

 

SNSを利用した政治活動の注意点

 


SNSを政治利用している具体例

では、実際にどのような形でSNSが政治活動に活用されているのでしょうか。近年は政治家だけでなく、市民団体や一般の有権者も、SNSを通じて意見を発信したり情報を共有したりしています。

ここでは、さまざまな立場における具体的な活用例を見ていきましょう。


政治家や政党での利用

SNSを活用して情報発信を行う政治家や政党は年々増えており、選挙の現場でも目立った動きが見られるようになっています。とりわけ大きな話題を呼んだのが、2024年の東京都知事選挙に出馬した石丸伸二氏の戦略です。政党の支援を受けない無所属での出馬にもかかわらず、SNSとYouTubeを駆使して短期間で注目を集め、最終的には約165万票を獲得して2位につけました。

石丸氏は、記者会見や街頭演説の様子をYouTubeで継続的に配信したほか、視聴者とのリアルタイムのやりとりも積極的に実施。演説車には「SNS投稿OK」「撮影・拡散OK」と記したステッカーを掲示し、応援する人々が自由に動画を撮影・拡散できるよう促しました。その結果、切り抜き動画が多数投稿され、SNS上での総再生回数は1億5千万回を超えたともいわれています。

また、同年の衆議院補欠選挙では国民民主党が石丸氏の事例を参考にし、演説動画や素材をあえて一般公開することで、支持者による自発的な拡散を後押し。これにより、候補者の演説や政策がSNS上で短く分かりやすく伝わり、特に若年層を中心に広く拡散されました。この結果、比例得票数は前回から倍増し、ネットを起点とした支持の広がりが数字にも表れました。


市民団体の利用

近年、市民団体はSNSを積極的に活用し、活動の周知や参加者の募集、情報共有などを行っています。例えば、茨城県つくば市では、市民活動課・インテル・筑波大学の三者連携による取り組みとして、Facebookを活用した市民活動団体のネットワーク構築プロジェクトが実施されました。このプロジェクトでは、各団体がそれぞれ専用のFacebookページを開設し、日々の活動内容やイベント情報を発信。団体同士のつながりが深まったことで、地域内の情報循環が活性化し、コミュニティの連携強化にもつながっています。

また、地方自治体もSNSを活用して地域の魅力を発信しています。​例えば、長崎県南島原市は、人口約4万5,000人にもかかわらず、半年でFacebookのファン数9万人を獲得しました。​これは、質の高い写真コンテストを実施し、毎月厳選してFacebook上で表彰するという活動が功を奏した結果です。

参照:市民活動SNSへの参加促進要因に関する研究:つくば市民活動のひろばを事例として
参照:自治体におけるSNSの活用


一般市民の利用

一般市民もSNSを通じて、自らの政治的意見を発信し、社会的な議論に積極的に参加するようになっています。たとえば、2020年に政府が提出した検察庁法改正案に対しては、多くの市民がTwitter上で反対の声を上げました。

この法案は、検察官の定年を63歳から65歳に引き上げると同時に、内閣の判断で特定の検察幹部の定年を延長できる内容を含んでおり、検察の独立性が損なわれるのではないかとの懸念が広まりました。

こうした動きに対し、俳優やミュージシャンなど著名人をはじめとする多くのユーザーが「#検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグを用いて意見を投稿。その数は短期間でおよそ470万件にのぼり、かつてない規模のオンライン抗議へと発展しました。このSNS上での大規模な世論の可視化が大きな影響を及ぼし、結果として法案の成立は見送られることになりました。


海外での事例

では、海外ではSNSがどのように政治活動に活用されているのでしょうか。

例えば韓国では、SNSやブログ、掲示板などの参加型ネットツールを積極的に活用する市民が多く、政治的な意見表明の手段としても広く浸透しています。特に20代・30代を中心に、インターネット上で政治情報を閲覧したり、自ら意見を投稿したりする行動が活発であり、それが選挙への関心や政治参加の意識向上につながっていることが、日韓比較調査からも明らかになっています。

もちろん、投稿行動が必ずしも投票行動に直結するわけではありませんが、政治的関心を高める一つの契機となっており、保守層が匿名掲示板を好む傾向、日本よりも革新層が積極的にオンライン発信を行う韓国の特徴など、国ごとの文化的背景がSNS利用にも反映されています。こうしたデジタル空間での表現活動が、今後の民主主義のあり方にどのような変化をもたらすのか、注目が集まっています。

 

政治家・立候補者専用Web制作


まとめ

本記事では、SNSを利用した政治活動に関するルールや注意点、具体的な活用事例について解説しました。

SNSの普及により、政治活動のあり方は大きく変化しています。政治家はもちろん、有権者にとってもSNSは意見を発信し、議論に参加できる貴重な場となりました。一方で、選挙運動との線引きや、発言内容によって生じるリスクについては正しく理解しておく必要があります。

自由な発信が許されているからこそ、何を、いつ、どのように伝えるかが問われます。政治活動にSNSを活用する際は、法的ルールと社会的責任の両面を踏まえた健全な情報発信を心がけていきましょう。