選挙が近づくと、候補予定者や陣営スタッフから決まって寄せられる質問があります。「公示日・告示日の前に、SNSで『出陣式やります、応援に来てください!』と投稿してもいいのか?」というものです。
Twitter(現X)、Instagram、Facebook、LINEオープンチャットなど、SNSは今や選挙の情報発信に不可欠なツールとなりました。一方で、公職選挙法(以下「公選法」)の事前運動規制は依然として厳格で、SNS投稿が思わぬ違反に問われるリスクも残っています。
本稿では、告示日前のSNS投稿が「セーフ」「アウト」のいずれに振れるのか、その線引きの考え方を、複数の立場から整理します。
公選法第129条は、選挙運動ができる期間を「公示日(衆参の議員選挙)または告示日(地方選挙など)から、投票日の前日まで」と定めています。これより前に選挙運動を行うことを「事前運動」と呼び、明確に禁止しています。
違反した場合は、第239条により1年以下の禁錮または30万円以下の罰金が科される可能性があり、当選者であれば公民権停止の対象にもなり得ます。極めて重い規制です。
背景には、長期間にわたる無秩序な選挙運動の過熱、金権選挙の温床化、候補者間の不平等――こうした弊害を防ぎ、選挙の公平を担保するという趣旨があります。
ここで論点になるのが、そもそも「選挙運動」とは何か、という線引きです。判例・行政解釈上、選挙運動とは次のように整理されています。
「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」。
この三要素――①特定の選挙、②特定の候補者、③投票を得る目的――が揃ったとき、当該行為は選挙運動と評価されます。
一方、政党や政治家が日常的に行う政策の宣伝、演説会・国政報告会の開催、後援会活動などは「政治活動」とされ、選挙期間外でも自由に行うことができます。さらに、事務所開設・スタッフ確保・物品手配など、選挙運動を実施するための裏方準備は「準備行為」として、これも公示・告示前に行うことが認められています。
この三つの関係をイメージで整理すると、次の図のようになります。「政治活動」という大きな枠の中に「選挙運動」が重なり、その重なり部分こそが、SNS投稿で問題になりやすいグレーゾーンです。

ここで前提として強調しておきたいのは、本稿で扱う「SNS投稿」は、あくまで候補予定者本人や支援者がアカウントから無料で発信する「オーガニック投稿」を指す、という点です。SNSの有料広告(後述)は、また別の厳しい規制が及びますので、混同しないようご注意ください。
では、告示日前にSNSで「出陣式やります。みなさんぜひお越しください!」と投稿することは、選挙運動でしょうか、政治活動でしょうか、それとも準備行為でしょうか。実は、文言や状況によって評価が変わるグレーゾーンの典型です。
総務省の解釈や、選挙実務に詳しい弁護士・行政書士の見解を踏まえると、次のように整理できます。
第一に、後援会員や事務所スタッフなど、内部関係者に向けて集会の段取りを連絡する場合です。これは「準備行為」と評価されやすいでしょう。
第二に、「事務所開き」「決起集会」「○○後援会の集い」など、選挙運動と一体化していないニュアンスにとどまる告知の場合です。候補者名はあっても、投票依頼を含まない発信は、政治活動の延長として許容される余地が大きいといえます。
第三に、日付・場所・時間など、事実情報を淡々と伝える告知です。「来てください」と呼びかける範囲を超えていなければ、ただちに違法とまでは言い切れないとされます。
第一に、「○月○日告示の○○選挙の候補・△△です」と、特定の選挙と候補者の地位を明示する投稿です。
第二に、「当選に向けて、ぜひご支援を」「○○に一票をお願いします」など、投票・支援の依頼が含まれる投稿です。
第三に、不特定多数に向けて拡散することを前提とした、選挙運動そのものと変わらないトーンの発信です。
実務上は、①特定の選挙への言及、②候補者であることの明示、③投票や支援の依頼――この三要素が揃うほど、事前運動と評価されるリスクが急激に上がる、と理解されています。
事前運動と認定された場合、本人だけでなく投稿を依頼した候補者・陣営幹部も処罰対象となり得ます。罰則は前述のとおり1年以下の禁錮または30万円以下の罰金で、公民権停止の対象です。
加えて、SNS投稿はスクリーンショットで容易に証拠化されます。「うっかり投稿」「冗談のつもり」が後日問題化するケースも珍しくありません。本人が削除しても、第三者によるスクリーンショットや魚拓サイトが残っていれば証拠能力を持ち得ます。
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