選挙のたびに、ポスターの破損や候補者へのなりすまし、選挙活動の妨害行為などをめぐって逮捕者が出たという報道が後を絶ちません。これらのほとんどは「公職選挙法」に違反する行為であり、一般の有権者が関与しているケースも多くあります。とはいえ、法の名称こそ広く知られているものの、どのような行為が違反になるのかを正確に把握している人はそう多くないでしょう。
そこで本記事では、違反を避けるために知っておきたい禁止行為をわかりやすく解説します。ルールを正しく理解し、安心して選挙運動に参加できるよう、ぜひ最後までご覧ください。
公職選挙法とは何か
選挙に関するルールを正しく理解するために、まずは公職選挙法の基本から確認していきましょう。
公職選挙法とは
公職選挙法とは、国政選挙や地方選挙における手続きやルールを定めた法律です。選挙制度の仕組みや立候補の手続き、選挙運動の方法や期間などが細かく規定されており、1950年の制定以降、社会や制度の変化に対応する形で幾度も見直しが行われています。
その目的は、有権者一人ひとりの意思が正当に反映される選挙を実現することにあり、手続きの透明性や平等性を確保することを通じて、民主政治の安定と信頼の維持を図っています。現代においても、その役割は変わらず、選挙の健全な運営を支える重要な法律として位置づけられています。
一般人も公職選挙法の対象になる
公職選挙法の適用対象は、候補者や政党だけではありません。ただし、選挙運動に参加できるのは「日本国籍を持ち、満18歳以上」の人に限られます。選挙活動に関与する全ての人が規制下に置かれますが、未成年や外国籍の方は選挙運動を行うこと自体が禁止されています。
したがって、選挙運動を妨害する行為、選挙運動の見返りに報酬を受け取る行為、SNS上での不適切な発信などを行った場合は、一般人であっても処罰される可能性があります。
「知らなかった」「悪意はなかった」では済まされないのが法律の世界です。自身の行動を守るためにも、公職選挙法に関する基本的な理解を深めておくことは欠かせないといえるでしょう。
一般人が公職選挙法違反になる禁止行為とは
では、具体的にどのような行為が違法とされているのでしょうか。ここからは、一般人が注意すべき代表的な禁止行為について解説していきます。
集会や演説の妨害行為
候補者が行う街頭演説や個人演説会などの活動を、意図的に妨害する行為は公職選挙法違反となります。たとえば、拡声器を使って演説の声をかき消す、集会の場で怒鳴る・騒ぐ、暴言を吐く、物を投げるといった行為がこれに該当します。
こうした妨害は、選挙の公正さを損ねる行為として厳しく取り締まられており、一般人であっても懲役や罰金などの刑罰が科される可能性があります(公職選挙法第225条第2号)。候補者の主張を直接聞くことができる貴重な場を妨害するような行為は絶対にやめましょう。
ポスターや立て看板の破損・落書き
選挙期間中に掲示される選挙ポスターや立て看板は、法律に基づいて設置されている公的な掲示物です。これらを破ったり、はがしたり、落書きを加えたりする行為は、公職選挙法に違反するだけでなく、器物損壊罪などの刑事罰の対象にもなり得ます。いたずら目的や抗議の意思表示であっても、正当化されることはありません。
また、ポスターの一部を剥がす、釘を打ち込む、別の紙を上から貼るといった行為も当然違法です。軽率な行動が処罰に直結することもあるため、ポスター類には決して手を加えないよう注意してください。万が一、周囲で違法行為を目撃した場合には、速やかに警察や選挙管理委員会に連絡しましょう。
金銭・物品の受け取り
選挙期間中かどうかに関わらず、候補者やその関係者から金銭や物品を受け取る行為は、公職選挙法によって固く禁止されています。これは「買収」として扱われ、有権者の自由な判断による投票をゆがめる重大な違反行為とされています。
選挙は本来、公平なルールのもとで行われるべきものであり、金品の授受によって投票先を左右するような行為は、民主主義そのものへの侵害と見なされます。買収罪は選挙違反の中でもとりわけ悪質な犯罪とされており、厳しい罰則が設けられています。
特に注意しなければならないのが、実際に金銭や物品の受け渡しが行われていなくても、「渡す」「受け取る」といった約束や申し込みだけで犯罪が成立します。しかも、処罰の対象になるのは渡した側だけでなく、受け取った側にも及ぶため、軽い気持ちで応じることは絶対に避けなければなりません。
事前運動に該当する行為
選挙運動が認められるのは、公示日または告示日から投票日前日までの期間内に限られています。したがって、公示日よりも前に事前運動に該当する行為をすると、公職選挙法に違反する可能性があります(公職選挙法第129条)。
この規定は、選挙運動費用の過度な増加を防ぎ、不正の温床となる常時運動の状態を避けるとともに、すべての候補者が公平な条件で選挙に臨めるようにするためのものです。
たとえば、公示日前に候補者の氏名・政党名・顔写真を明示したうえで投票を呼びかける行為、当選を目的とした署名活動、電話による投票依頼などは、いずれも違法となるおそれがあります。「選挙運動のつもりはなかった」などの弁明は、法の前では通用しませんので時期には十分注意してください。
満18歳未満の選挙運動への参加
若い世代が政治や社会に対して関心を持つことは、民主主義の健全な発展に欠かせません。しかし、公職選挙法においては、選挙運動への参加は原則として満18歳以上の者に限られており、18歳未満による選挙運動は一切禁止されています(公職選挙法第137条の2)。
そのため、街頭でビラを配布したり、SNSで特定の候補者を応援する投稿を行うことも、選挙運動とみなされる場合があるため注意が必要です。これは公職選挙法によって明確に定められており、たとえ保護者の許可があったとしても例外は認められません。
本人の意思や内容の軽重にかかわらず、違反行為として指導や処分の対象になる場合があるため、18歳の誕生日を迎えるまでは、選挙運動に関わらないようにしましょう。
挙運動での違反行為
2013年の法改正により、インターネットを活用した選挙運動が一部解禁されました。これにより、候補者や政党だけでなく、一般の有権者もインターネットを通じた情報発信が可能となります。
とはいえ、なんでも自由に発信して良いわけではありません。ここからは、一般人が注意すべきネット選挙運動の禁止行為について詳しく見ていきましょう。
一般人による電子メールでの選挙運動
選挙運動における電子メールの利用は、候補者や政党など特定の主体に限って認められており、一般の有権者がメールで選挙運動を行うことは法律で一律禁止されています。
これは、電子メールが密室性の高い手段であることから、誹謗中傷やなりすましに悪用されやすいというリスクがあるためです。また、送信先の制限や形式に関するルールも複雑で、一般人が知らずに違反行為を行ってしまう可能性が高いことも理由とされています。
したがって、候補者への投票を呼びかける内容をメールで送信した場合、その相手が家族や友人であっても違法と判断される可能性があります。一方で、候補者本人や政党等は例外的にメールの使用が認められています(改正公職選挙法第142条の4第1項)。
このように、立場によってルールが異なる点を理解せずに行動すると、思わぬ違反につながるおそれがあるため注意が必要です。
ホームページやメールの内容を印刷して配布すること
候補者のウェブサイトやメール、SNS投稿など、インターネット上で発信された選挙関連情報を印刷し、第三者に配布する行為は公職選挙法違反となる可能性があります(公職選挙法第142条、第243条)。選挙運動用の文書図画(ビラ・ポスターなど)は、配布できる枚数や形式、記載内容、掲示場所などに厳格なルールが設けられており、これを守らずに印刷物として配布することは違法です。
ネット上で画像などを共有することは認められていても、それをプリントアウトすることで別の法規制が適用されるので、この点はしっかり覚えておきましょう。
氏名や身分を偽ってネット上で発信すること
インターネット上で選挙に関する情報を発信する際、特定の候補者を当選させる、あるいは当選させない目的をもって、氏名や身分を偽って投稿・拡散する行為は、公職選挙法により禁止されています(公職選挙法第235条の5)。
たとえば、他人になりすまして候補者を応援する投稿を行ったり、架空の団体名を使って特定の候補者を批判したりする行為は違法です。特に、SNSや掲示板のように匿名性が高い場では、あたかも信頼に足る人物や団体であるかのように装い、世論を誘導しようとするアカウントも見られます。しかし、こうした偽装投稿は選挙の公正性を著しく損ない、結果として有権者を誤導するおそれがあるため、厳しく取り締まられています。
インターネットを活用して選挙運動を行う際は、身元表示の正確さにも細心の注意を払いましょう。
候補者を落選させる目的で虚偽情報を拡散すること
選挙戦が過熱する中で、「この候補者には勝たせたくない」と強く思うあまり、デマ情報をネット上に流そうとする(流したことがある)人もいるかもしれません。しかし、落選させる目的で、虚偽の内容を公にしたり、事実をゆがめて発信した場合には、公職選挙法に照らして処罰の対象となります(公職選挙法第235条第2項)。
単なる噂や憶測であっても、その発信が選挙に重大な影響を与える可能性があり、後になって「冗談だった」「人から聞いた話をそのまま書いただけだ」と弁解しても、法の下では一切通用しません。虚偽情報は選挙の公正性を大きく損なう行為であることを強く認識し、軽率な投稿はしないようにしましょう。
連座制に巻き込まれないために知っておくべきこと)
選挙違反は、実行した本人だけでなく、候補者やその関係者にまで影響が及ぶ場合があります。なかでも注意しなければならないのが「連座制」です。ここでは、その仕組みや対象者、免責の条件などについてわかりやすく解説します。
連座制とは
連座制とは、候補者自身が違反行為を行っていなくても、その関係者が重大な選挙違反を犯した場合に、候補者本人にも重大な処分が下される制度です。
具体的には、運動の責任者や秘書、親族などが買収などの罪で有罪となり、一定の刑が確定したときに、候補者の当選が無効になったり、5年間立候補できなくなる措置が取られます。これは、候補者に対して選挙の公正性を守る責任を強く課し、選挙運動全体の健全性を保つための仕組みです。
関係者の行動一つで候補者の政治生命に影響を与えることもあるため、候補者はもちろん、支援者側も細心の注意を払う必要があります。
連座制の対象となる人物
連座制の対象となるのは、候補者の選挙運動を実質的に担う立場の人物です。具体的には以下のような関係者が対象となります。
- 総括主宰者(選挙運動全体の責任者)
- 出納責任者(選挙運動の収支を管理する責任者)
- 地域主宰者(特定の地域で運動を取りまとめる人物)
- 候補者または立候補予定者の親族(父母や配偶者、兄弟姉妹、子など)
- 候補者または立候補予定者の秘書
- 組織的選挙運動管理者等(団体や組織に属して計画的に運動を行う責任者など)
連座制によって科される処分内容
連座制によって科される主な処分内容は以下の2点です。
・当選の無効: 連座制の対象となる選挙において、候補者の当選が無効となる
・立候補の制限: 一定期間(通常5年間)、同じ選挙・選挙区からの立候補が禁止される
連座制が免責されるケース
連座制は厳格な制度ですが、すべてのケースに無条件で適用されるわけではありません。たとえば、違反行為が「おとり(対立陣営による誘発行為)」や「寝返り(対象者が他陣営に加担した場合)」と認定される場合や、候補者による十分な監督・指導があったと客観的に認められる場合には、連座制の適用が免除されることがあります。
「寝返り」は、連座制の対象者が他陣営に転じて違反を働く行為です。また、候補者が組織的選挙運動管理者に対して適切な監督や指導を行っていたと認められた場合も、責任が問われない可能性があります。ただし、立候補制限が免除されるにとどまり、当選の無効までは免責されない点には注意が必要です。
公職選挙法を周囲と共有することが重要
選挙違反は、自分が意図せず行ってしまうだけでなく、家族や友人、同僚など身近な人が関わることで思わぬかたちで巻き込まれてしまうこともあります。特に連座制のように、他人の行為によって候補者の責任が問われる仕組みがある以上、法律の内容を自分だけが理解していればよいとは言えません。選挙期間中に不用意な行動を取らないようにするためにも、前述した対象者だけでなく、選挙運動に関わる全てのスタッフ、ボランティアなどに対し、公職選挙法の基本的なルールや禁止行為について、情報を共有しておくことが大切です。
一般人が注意すべき公職選挙法違反のよくある事例
ここからは、一般人の公職選挙法違反としてよくある事例をもとに、注意点を具体的に見ていきましょう。
自宅の塀に貼られた選挙ポスターをはがした
選挙が近づくと、街のあちこちに選挙用ポスターが掲示されはじめます。これらのポスターは、公職選挙法に基づき適切な手続きのもとで作成・設置されているものであり、第三者が勝手にはがしたり、破損させたりすることは法律で禁じられています。
過去にはポスターを破ったり、候補者名の上に落書きをしたりするなどの行為により、逮捕された事例も存在しますが、有罪となれば罰金刑が科される可能性もあるので注意しましょう。
ただし、自宅の塀などの私有地に「無断」で貼られた場合は例外です。選挙ポスターは、設置にあたって掲示場所の管理者から許可を得ることが法的に義務づけられているため、住人の了承がないまま貼られたポスターについては、管理者本人が自らの判断ではがしても違法とはなりません。
候補者の街頭演説を拡声器で妨害した
選挙期間中に、候補者の街頭演説を妨害する行為は、公職選挙法における「自由妨害」に該当します。実際に2024年4月の衆院補欠選挙(東京15区)では、政治団体のメンバーが他陣営を追尾し、拡声器で「売国奴」などと罵声を浴びせる行為を繰り返しました。これにより演説の中止を余儀なくされた候補者もおり、関係者らは公職選挙法違反で逮捕・起訴されています。
ヤジとの違いは「威力」や「交通・集会の便を妨げるかどうか」が判断基準となります。単なる批判的発言ではなく、大音量での威圧や妨害行為となれば自由妨害と見なされ、処罰の対象となり得ます。言論の自由を盾に過剰な行為に及ぶことは、法律違反につながるおそれがあるため絶対にやめましょう。
候補者のSNS投稿を代行して報酬を受け取った
選挙期間中、候補者の代わりにSNS投稿を行い、その見返りに報酬を受け取った場合、公職選挙法違反となるおそれがあります。選挙運動に関わる行為に報酬を支払えるのは、ごく限られた役割に就いた人のみで、選挙運動員(広報や応援の投稿)はその対象に含まれません。
たとえば、候補者の当選を目的とした働きかけを行った人に、法律で定められていない報酬を支払った場合、違法な買収と見なされる可能性があります。実際、過去には電話作戦に関与した運動員に報酬が支払われたことで、逮捕された事例もありました。
SNS運用の仕事を請け負う場合には、時期と内容に注意し、選挙運動との区別を明確にすることが重要です。
投票日当日に友人へSNSで投票依頼をした
投票日当日に「○○さんに投票してね」とSNSで投稿したり、候補者の投稿をシェアしたりする行為は、公職選挙法に違反するおそれがあります。選挙運動は法律上、投票日前日までと明確に定められており、当日に行うことは禁止されています。
仮に直接的な投票依頼でなくても、候補者のSNS投稿を投票日当日にリポスト・シェアした場合、「再拡散」とみなされるケースが多く、結果的に選挙運動と判断され違反となる可能性が非常に高いです。実際、「いいね」などの操作も違反の対象となる場合があるため、投票日当日は選挙関連投稿への一切の反応を避けるのが安全です。
候補者の選挙ポスターをコピーして配布した
すでにお伝えした通り、候補者のポスターをプリントアウトし、それを知人などに配布することは、公職選挙法に違反する可能性があります。選挙運動で使用できる文書や図画(ポスター・ビラなど)は、公職選挙法第142条により種類や枚数、頒布の方法などが厳しく定められており、候補者や陣営によって正式に作成・届け出されたもの以外は頒布してはいけません。
インターネット上で公開されているポスター画像であっても、それを印刷して配布する行為は「無許可の頒布」とみなされ、違法な選挙運動と見なされる可能性があります。また、見た目には選挙運動に見えない文書であっても、配布のタイミングや場所によっては、事前運動と判断されるケースもあるため注意しましょう。
候補者の選挙用ビラの画像を友人にメールで送信した
選挙用ビラの画像をメールで友人に送る行為は、公職選挙法で禁止されています。インターネット上に公開されたビラ画像をSNSでシェアすることは問題ありませんが、メールで送信する行為には厳しい制限があります。特に、選挙運動目的で電子メールを利用できるのは、候補者や政党など限られた主体に限られており、一般の有権者がビラ画像を添付して送信することはできません。
選挙運動を行う際には、法令を遵守し、適切な方法で情報を伝えるよう心掛けましょう。
まとめ
公職選挙法は、選挙の公正さを守るために設けられた法律であり、一般の有権者も対象になります。悪気のない行動であっても、時期や手段によっては違法と判断されることがあります。特にSNSの利用やポスターの扱い、金銭の受け取りなどには細心の注意が必要です。
選挙に関わるすべての人が正しい知識を持つことが、健全な民主主義の維持につながります。違反を防ぐためにも、公職選挙法のルールを理解し、周囲とも共有しておくことが大切です。