2025年6月22日(日)には、私たちの暮らしに直結する重要な選挙、東京都議会議員選挙が予定されています。現在の都議会議員の任期が同年7月22日に満了となるため、これからの東京の未来を託す代表者を選ぶ、私たち都民にとって極めて大切な機会です。
選挙は、民主主義社会における最も基本的で重要な権利行使の場です。しかし、その権利を正しく行使するためには、投票所に設けられたルールへの理解が不可欠です。これらのルールは、単に手続きを形式的に定めたものではありません。すべての有権者が誰からの圧力も受けずに自らの意思を表明できる「公正さ」と、誰がどの候補者に投票したかという個人のプライバシーが守られる「秘密」を確保するために存在します。これらは、公職選挙法という法律によってその根幹が支えられている、民主主義の根拠そのものと言えるでしょう。
本記事では、来る都議会議員選挙 2025を前に、特に投票所という物理的な空間におけるルールや注意点に焦点を絞って解説します。投票所のルールは、有権者を縛るためのものではなく、むしろ有権者一人ひとりの貴重な一票を守るために設計されたシステムです。ルールを知らないばかりに、せっかく投じた一票が「無効票」になってしまったり、意図せず他の有権者に迷惑をかけてしまったり、最悪の場合は選挙違反と見なされる行為をしてしまったりする可能性もゼロではありません。
この記事を最後までお読みいただくことで、投票所での振る舞いに関するあらゆる疑問が解消され、自信を持って大切な一票を投じることができるようになります。
ー目次ー
ー投票所でのNG行動5選:あなたの投票を守るための重要ルール
まずは、投票所の中での基本的なNG行動を5つご紹介します。なぜその行為が禁止されているのか、その背景にある理由を理解することで、ルールの本質が見えてくるはずで
スマートフォンが生活に不可欠となった現代において、最も注意すべきが写真撮影です。特に、自分が記入した後の投票用紙を撮影する行為は、公職選挙法上の直接的な罰則規定はないものの、ほとんどすべての投票所で禁止されています。
このルールの背景には、日本国憲法でも保障されている選挙の最重要原則、「秘密投票の原則」があります。有権者は、誰に投票したかについて、公的にも私的にも一切の責任を問われない権利を持っています。この原則は、かつて有力者や雇用主が労働者に対して特定候補への投票を強要し、その証拠を求めるといった不正を防ぐために確立された、歴史的にも非常に重要なものです。
記入済みの投票用紙を撮影し、それをSNSなどで公開する行為は、自らこの「秘密」を放棄し、将来的に他者からの投票強要を容認しかねない危険性をはらんでいます。また、撮影行為そのものやシャッター音が、他の有権者の集中を妨げ、静粛であるべき投票所の秩序を乱すことにも繋がります。最終的な判断は、投票所の秩序を維持する責任を持つ投票管理者に委ねられていますが、トラブルを未然に防ぐためにも、投票所内ではスマートフォンをカバンやポケットにしまっておくことが、最も賢明な行動と言えます。
投票所は、有権者が様々な情報から自らの考えをまとめ、最終的な意思決定を下すための神聖な空間です。そのため、投票所内での一切の選挙運動は固く禁じられています。
具体的には、以下のような行為が該当します。
これらの行為は、他の有権者の自由な意思決定を妨げる「投票干渉罪」に問われる可能性があります。投票所は、選挙戦の喧騒から切り離された、完全な中立地帯でなければなりません。そこでの特定の候補者を応援する言動は、選挙の公正さを著しく損なう行為と見なされます。
もちろん、日常的な会話がすべて禁止されているわけではありません。しかし、どの候補者に投票するか迷っている人に対して、特定の候補者を名指しで勧めたり、その場で議論を始めたりすることは絶対に避けるべきです。なお、投票する候補者の名前を忘れないようにメモを持ち込むこと自体は問題ありませんが、そのメモを他の人に見せびらかすなど、特定の候補者をアピールするような行動は「被選挙人の氏名等認知罪」に該当するおそれがあるため、注意が必要です。
投票用紙は、あなたの意思を示すための非常にシンプルなツールですが、その書き方には厳格なルールがあります。これを守らないと、せっかくの一票が「無効票」となり、誰の得票にも数えられなくなってしまいます。無効票となるかどうかの判断は、開票作業の際に、一枚一枚人の目で確認され、定められた基準に沿って厳格に行われます。
ここでは、どのような場合に有効となり、どのような場合に無効となるか、具体的な例を以下の表にまとめました。
表1:有効票と無効票の境界線 - この書き方はセーフ?アウト?
記載例 |
判定 |
理由・解説 |
候補者の氏名のみ |
有効 |
最も正しく、確実な記載方法です。 |
候補者の職業や敬称を付記(例:「弁護士 高橋三郎」「高橋三郎 先生」) |
有効となる可能性が高い |
同姓同名の候補者がいる場合など、本人特定に資すると判断されるためです。ただし、氏名のみが最も確実です。 |
応援メッセージ等(例:「山田花子 頑張れ!」) |
無効 |
候補者名以外の記述は「他事記載」と見なされ、誰への投票かという意思表示以外の意図が含まれるため無効となります。 |
候補者名+自分の署名 |
無効 |
誰が投票したか特定できてしまい、憲法で保障された「秘密投票の原則」に反するためです。 |
候補者名を2人以上記載 |
無効 |
1つの選挙で選択できるのは原則1人(または1党)です。投票の意思が特定できません。 |
記号(〇、✓など)のみ |
無効 |
どの候補者を意図しているか客観的に特定できないためです。 |
白紙で投函 |
無効(白票) |
投票の意思表示がないため、「白票(はくひょう)」として集計されますが、どの候補者の得票にもなりません。 |
大切なのは、「候補者の氏名(または政党名)を、正確に、一つだけ書く」という基本を徹底することです。感謝の気持ちや応援のメッセージを伝えたくても、それは投票用紙ではなく、別の方法で表現するようにしましょう。
記載台で他の人がどの候補者の名前を書いているのか、興味本位でのぞき見る行為は、絶対にやめてください。これは、NG1で解説した「秘密投票の原則」を、他者の側から侵害する行為です。
すべての有権者は、他人の目を気にすることなく、完全にプライベートな空間で投票する権利を持っています。のぞき見は、この権利を脅かし、有権者に心理的な圧力を与えかねない重大なマナー違反であり、投票所の秩序を乱す行為です。あなたの権利が他者から尊重されるべきであるのと同様に、あなたも他者の権利を尊重する義務があります。投票所におけるこの相互尊重こそが、民主主義の基盤を支えているのです。
冗談や記念のつもりであっても、投票用紙を投票所から持ち帰ることは絶対に許されません。これは明確な法律違反です。
公職選挙法では、選挙人が交付された投票用紙は「投票箱に入れなければならない」と明確に定められています。この規定は、投票用紙が個人の所有物ではなく、選挙という公的プロセスを構成する「管理された物品」であることを示しています。一枚一枚の投票用紙が厳格に管理されることで、選挙全体の信頼性が担保されるのです。
もし投票用紙を受け取った後に投票する意思がなくなった場合は、勝手に持ち帰ったり破り捨てたりせず、必ず投票所の係員に申し出て、正式に返却してください。
最後に、多くの人が疑問に思う点をQ&A形式で、より深く掘り下げて解説します。
A.はい、入れます。
かつては同伴できるのは「幼児」に限られていましたが、公職選挙法が改正され、現在は18歳未満の子供であれば一緒に投票所に入ることが認められています。これは、投票所 子連れでの来場を公式にサポートするものです。
このルール変更の背景には、単に子育て世代の投票利便性を高めるという目的だけではなく、より積極的な意図があります。それは、将来の有権者を育む「主権者教育」としての役割です。総務省もこの「親子連れ投票」を積極的に推奨しており、ある調査では、子供の頃に親の投票に付き添った経験がある人は、そうでない人に比べて成人後の投票率が20%以上も高いというデータも報告されています。子供たちが幼い頃から投票という行為を身近に感じることは、民主主義の担い手を育てるための、社会全体にとっての長期的な投資なのです。
ただし、同伴する際には以下のルールを守る必要があります。
A.はい、「代理投票」という制度を利用できます。ただし、家族や付き添いの方が代わりに書くことはできません。
この制度は、病気や怪我、身体の障がいなどの理由で、ご自身で文字を書くことが難しい方の投票権を保障するために設けられています。この制度の設計は、**アクセシビリティ(誰もが投票できること)とインテグリティ(投票の秘密と公正さが保たれること)**という、時に相反する二つの要請を両立させる、非常に考え抜かれた仕組みになっています。
代理投票を希望する場合、投票所の係員に「代理投票をお願いします」と申し出てください。手続きは以下の厳格な流れで行われます。
この二重のチェック体制により、代筆者の個人的な意図が介入することを防ぎ、有権者の本当の意思が正確に反映されると同時に、投票の秘密が付き添いの家族などに漏れることなく守られるのです。
A.投票する日時と、事前の手続きが異なります。しかし、あなたの一票の価値や重み、投票の秘密が守られる点においては、全く同じです。
期日前投票は、投票日当日に仕事や旅行、レジャー、冠婚葬祭などの理由で投票所に行けないと見込まれる人が、選挙期間中に前もって投票できる制度です。この制度は、人々のライフスタイルが多様化した現代において、投票率を維持・向上させるための重要な仕組みとなっています。
最も大きな手続き上の違いは、期日前投票を行う際に「宣誓書」を提出する必要がある点です。これは、投票日当日に投票できない見込みであることを宣誓・証明するための簡単な書類です。氏名や住所のほか、投票日当日に投票できない理由(仕事、旅行、レジャーなど、非常に幅広い理由が認められています)を選択肢から選んで記入します。この宣誓書は、ご自宅に届く投票所入場券の裏面などに印刷されているか、期日前投票所に用意されていますので、その場で記入することも可能です。この宣誓書提出という一手間が、法律上の「投票日当日の投票」という原則と、有権者の利便性を両立させるための手続きとなっています。
この期日前投票の注意点さえ押さえておけば、投票用紙に記入して投票箱に入れるという投票行為そのものは、当日投票と何ら変わりありません。
ここまで、投票所のルールとその背景にある理由を詳しく解説してきました。
これらのルールは、禁止事項のリストではなく、**あなたの大切な一票が、誰にも邪魔されず、確かに未来へ届くように設計された「安心のための仕組み」**です。ルールを知ることで、あなたの投票はもっと自信に満ちた、確かなものになります。
2025年の都議会議員選挙では、ぜひこの記事で得た知識を胸に、気持ちよく投票所に足を運んでみてください。
一方で、近年ではSNSの利用にも注意が必要です。ネット選挙のルールや「#投票行った」投稿の注意点については、別の記事で詳しく解説していますので、そちらも是非ご覧ください。
https://senkyo.harefull.co.jp/blog/election-violation-via-sns-posts