インスタグラムは、写真や動画を駆使して視覚的に訴求できる特性から、近年では選挙戦においても活用が進むSNSの1つです。ただし、発信する内容やタイミングによっては「公職選挙法違反」とみなされる恐れもあるため、慎重な運用が求められます。
本記事では、選挙運動において認められているインスタ投稿の範囲や違反とみなされるケース、インスタを活用するメリット・デメリット、インスタを活用した効果的な選挙戦略について分かりやすく解説します。法令に則った正しい運用を理解したうえで、有権者との健全なコミュニケーションを築いていきましょう。
インスタの基本情報
ここではまず、インスタグラムの基本機能や拡散の仕組みについて整理しておきましょう。
インスタとは
インスタグラムは、米Meta社が提供する写真・動画の共有に特化したSNSで、主にスマートフォンを通じて利用されています。個人のライフスタイルや趣味の発信だけでなく、企業や団体のブランディングや情報発信の場としても広く定着しています。
特に視覚的な訴求力に優れており、投稿は「フィード」と呼ばれるタイムライン上に蓄積され、ユーザー同士が「いいね=♡」やコメントを通じて気軽に交流できる点が特長です。加えて、24時間で消える「ストーリーズ」、短尺動画の「リール」、リアルタイム配信が可能な「ライブ」など、多彩な機能が備わっており、フォロワーとの関係性を築きやすいプラットフォームとして高い支持を集めています。
写真や動画を手軽に投稿できる
インスタグラムの最大の特長は、スマートフォンから手軽に写真や動画を投稿できることです。アプリ内に備わったカメラ機能を使えば、撮影から編集、投稿までを一つの画面で完結できるため、専門的な知識がなくてもコンテンツを発信することが可能です。フィルターや編集ツールも豊富で、明るさやコントラストの微調整はもちろん、スタンプや文字入れなどによって、視覚的な訴求力を自在に高めることができます。
もともとは写真共有を中心に人気を博したインスタグラムですが、近年では動画、とりわけ短尺形式の「リール」への関心が高まっています。TikTokやYouTubeショートといった短尺動画文化の浸透が、その流れを後押ししているといえるでしょう。
こうした背景のもと、インスタグラムは操作の手軽さに加え、発信の即時性や継続性にも優れており、政治活動においてもタイムリーな情報発信ツールとして積極的に取り入れられています。
ハッシュタグでフォロワー以外にも拡散できる
インスタグラムでは、投稿にハッシュタグ(#)を付けることで、フォロワー以外のユーザーにも情報を届けることが可能です。そもそもハッシュタグとは、投稿内容を特定のテーマや話題ごとに分類し、検索性を高めるための機能であり、任意のキーワードやフレーズの先頭に「#」を付けて記載します。
たとえば、選挙関連の投稿においては、「#○○区議会議員選挙」「#候補者名」「#選挙に行こう」といったタグを付けておくことで、その話題に関心のあるユーザーに「検索」や「発見」タブ経由で見つけてもらいやすくなります。また、「#○○区の未来を考える」などのように、メッセージ性を持たせたハッシュタグを活用すれば、政策への共感や支持を広げるきっかけにもつながるでしょう。
インスタグラムにおいては、適切なタグの選定が拡散力に直結するため、内容に応じた使い分けが重要です。
選挙運動で認められるインスタ投稿とは?
ここまでインスタグラムの基本的な仕組みを確認してきましたが、では実際に選挙期間中、どのような投稿が認められているのでしょうか。
選挙運動が正式に認められるのは、公示日以降です。この期間であれば、公職選挙法に定められた範囲内でインスタグラムを活用した選挙運動が可能となります。
たとえば、「〇〇候補に投票してください」といった投票依頼を明記した投稿や、その趣旨を含んだ画像・動画をインスタグラムに掲載することは、認められています。フィードやストーリーズを活用して街頭演説の様子を発信したり、候補者の実績や政策内容を紹介したりすることも問題ありません。さらに、他のSNSと同様に、ダイレクトメッセージ(DM)機能を使って特定のユーザーに個別に投票を呼びかける行為も、公職選挙法上認められた選挙活動の一環として扱われます。
選挙違反とみなされるインスタ投稿とは?
近年では、選挙戦略の一環としてインスタグラムを活用する政治家が増えていますが、投稿の内容や発信のタイミング次第では、公職選挙法に抵触するおそれがあるため、細心の注意が求められます。ここからは、実際にどのような投稿が「選挙違反」と見なされるのかを詳しく見ていきましょう。
公示前に投票依頼の投稿をする
選挙運動が認められるのは、公示日から投票日前日までの期間に限られています(公職選挙法129条)。したがって、公示日前に「〇〇候補に投票をお願いします」といった投稿を行うことは、「事前運動」と見なされ公職選挙法に違反する行為となります。これは選挙の公正性を確保するための規定であり、すべての候補者が同一の条件下で有権者にアプローチできるよう、選挙運動の期間が一律に定められているためです。
インスタグラムの投稿も例外ではありません。たとえ画像や動画であっても、投稿内容に投票を促す意図が読み取れる場合には、選挙運動と判断される可能性があります。形式よりも「実質的な内容」が問われるため、発信にあたっては細心の注意が必要です。
有料広告を出す
公職選挙法では、候補者本人やその支援者である個人・団体が、選挙運動を目的として有料インターネット広告を出稿することを、原則として禁止しています(公職選挙法第142条の6)。これは、インターネット選挙運動の解禁を契機に「カネのかからない選挙」の実現を目指し、選挙の公正性と公平性を確保するために設けられた規定です。
仮に選挙運動における有料広告を容認すれば、広告出稿が過熱し、結果として資金力のある陣営が有利となる「カネのかかる選挙」に逆行するおそれがあることから、政党等が一定の条件下で行うものを除き、一切の出稿が禁止されているのです。
なお、この規定はインスタグラムに限らず、X(旧Twitter)やFacebook、YouTubeなど、すべてのSNSやインターネット媒体に共通して適用されるため、運用に際しては十分に注意してください。
他の候補者を誹謗中傷する
当然ですが、他の候補者に対する悪質な誹謗中傷は、いかなる理由があろうと絶対にしてはいけません。
インスタグラムをはじめとするインターネット上での選挙運動において、他の候補者を叩く投稿や発言は、これまでもたびたび問題視されてきました。選挙期間中は支持獲得に向けた競争が過熱しやすく、つい過激な言動に走りがちです。しかし、当選させないことを目的に嘘の情報を流したり、事実を歪めて広める行為は公職選挙法に反する違法行為です(公職選挙法第235条第2項)。投稿内容によっては名誉毀損罪や侮辱罪など、刑事責任を問われる可能性もあります。
表現の自由が保障されているとはいえ、その自由を盾に選挙の公正性を損なうような投稿は断じて許されません。候補者本人はもちろん、支援者や関係団体も含め、すべての関係者が法令を遵守し、インターネットの適正な利用に努めましょう。
投票日に投票依頼の投稿をする
先ほどもお伝えした通り、選挙運動が認められるのは、公示日から「投票日の前日」までです。つまり、投票日当日にインスタグラムで「〇〇候補に投票してください」といった投稿を行うことは、公職選挙法に違反する行為となります。これは候補者本人に限らず、支援者や関係者にも等しく適用され、投票日当日は一切の選挙運動が禁止されています。
ただし、投票日に政治的な内容をSNSで発信してはならない、という意味ではありません。「選挙に行こう」「投票は大事」といった一般的な呼びかけや、特定の候補者の支持を目的としない政治的な意見表明であれば、選挙運動には該当しません。
重要なのは、投稿の「目的」が選挙運動にあたるかどうかです。判断が難しい場合は、誤解を招かないよう発信を控えるのが賢明でしょう。
選挙運動でインスタを活用するメリット
インスタグラムは、視覚的に情報を伝えやすく、候補者の人柄や活動内容を効果的にアピールできる点が特長です。ここからは、選挙運動においてインスタを活用する主なメリットについて解説します。
イメージ戦略に最適なツールである
インスタグラムは、候補者自身の「人となり」や「雰囲気」を視覚的に伝えやすい点で、イメージ戦略に適したツールといえます。とりわけ他のSNSと比較して、炎上や過激なコメントが少なく、ポジティブな反応を得やすい傾向があります。
「政治」と聞くと堅苦しい印象を持たれがちですが、演説風景や活動の裏側、日常の素顔などを織り交ぜることで、有権者に対する親しみや信頼感の醸成が期待できます。また、文章中心のメディアに比べ、感情に訴える力が強いので、印象形成にも寄与しやすいといえるでしょう。
フォロワーとの心理的な距離を縮めるには、まずは定期的な投稿を心がけ、慣れてきた段階でストーリーズやリールなどの機能にもチャレンジするとよいでしょう。
若い世代へのアプローチに強い
インスタグラムは、若年層へのアプローチに特化した発信手段として非常に有効なツールです。2023年時点で、日本国内の月間アクティブアカウント数は6,600万を超えており、総務省の調査によると、20代の利用率は78.8%、10代も72.9%と、特に若年層を中心に広く浸透しています。
投稿がタイムライン上に自然に馴染む設計となっているため、政策メッセージであっても押しつけがましさを感じさせず、スムーズに伝えられる点が大きな特徴です。文字主体のメディアではリーチしにくい層に対しても、写真や動画といった視覚的な要素を通じて感覚的に訴えることができるため、選挙活動における有力な情報発信チャネルとなるでしょう。
コストがかからない
投稿やアカウント運用に費用がかからない点も、インスタグラム活用のメリットの1つです。
従来の選挙運動では、ポスターの印刷費やチラシの作成費、人件費、宿泊費など、多額のコストがかかるのが一般的でした。それに対し、インスタグラムのようなSNSプラットフォームを活用する場合、アカウントの開設や基本的な投稿機能の利用に費基本的に無料で利用できます。写真・動画・テキストといった各種コンテンツを無料で発信できるため、限られた予算内でも多くの有権者に効率的に情報を届けることが可能です。
さらに、印刷物とは異なり物理的な制約を受けないため、時間や場所を問わず発信できるのも特徴です。たとえば、移動中やスキマ時間を利用して、政策や候補者の人となりを写真や動画を通じて発信したり、ライブ配信で有権者と直接コミュニケーションを取ることもできます。
限られた資金で広範囲にアプローチしたい場合や、若年層をはじめとする特定の層に効果的にリーチしたい場合に、そのメリットは大きいといえるでしょう。
選挙運動でインスタを活用するデメリット
次に、選挙運動でインスタを活用する主なデメリットについても確認していきましょう。
拡散力が弱い
選挙運動でインスタを活用するデメリットの1つは、他のSNSに比べて拡散力が弱いことです。TwitterのリツイートやFacebookのシェア機能のように、ユーザー同士で投稿を拡散する仕組みがインスタグラムには備わっていません。そのため、投稿がフォロワー以外に届きにくく、拡散性という観点ではややクローズドなプラットフォームとなっています。
一方で、インスタグラムには「発見タブ」と呼ばれる機能があり、ユーザーの関心に応じて関連性の高い投稿が自動的に表示される仕組みがあります。投稿内容やユーザーからの反応次第では、この発見タブを通じて広範囲に情報が届けられ、いわゆる“バズ”を生む可能性もあります。とはいえ、拡散力はあくまでコンテンツ依存である点には注意が必要です。
シニア層へのアプローチが弱い
インスタグラムはZ世代を中心とした若年層に広く普及していますが、シニア層への訴求という点ではやや弱い媒体です。というのも、テキスト主体の情報収集やコミュニケーションに慣れ親しんできた高年齢層にとっては、画像や動画を軸とし、多機能なインターフェースを備えたインスタグラムに対して、操作の煩雑さや親しみにくさを感じることも少なくありません。そのため、選挙運動において全年代にアプローチするには、必ずしも万能な媒体とは言えないのが現状です。
一方で、総務省の「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書<概要>」によると、50代のインスタグラム利用率が51.7%と他のSNSを上回っており、今後さらに浸透が進む可能性もあります。
こうした状況を踏まえると、現時点では世代に応じたチャネルの使い分けが重要ですが、将来的な利用者拡大を見据えた中長期的な活用も視野に入れるべきかもしれません。
選挙運動でインスタを効果的に活用するポイント
ここからは、インスタグラムの特性を踏まえた上で、選挙運動において効果的に活用するためのポイントをご紹介します。
適切なハッシュタグを付ける
インスタグラムの投稿をより多くのユーザーに届けるには、適切なハッシュタグの活用が欠かせません。投稿の内容に合ったタグを付けることで、検索結果や「発見タブ」に表示されやすくなり、フォロワー以外のユーザーにもリーチする可能性が高まります。
たとえば「#○○市議会議員選挙」「#候補者名」「#選挙に行こう」など、地域名や話題性のあるタグを活用することで、関心の高い層に効果的に届きやすくなります。
ストーリーズを活用する
より多くの有権者に候補者の魅力を効果的に伝える手段として、インスタグラムのストーリーズも積極的に活用していきましょう。フィード投稿やリールとは異なり、スライドショー形式で情報を展開できるため、更新のお知らせや活動報告などを、フォロワーに自然なかたちで届けられます。
なかでも、有権者との関係構築に役立つのが「質問スタンプ」や「アンケートスタンプ」です。これらの機能を活用することで、一方的な情報発信だけでなく、有権者からの意見や疑問を直接受け付け、双方向のコミュニケーションを生み出すことができます。たとえば、質問スタンプで寄せられた内容をもとに、「皆さんからいただいた質問について、〇月〇日にライブでお答えします!」と告知すれば、ライブ配信への参加意欲を高める導線にもなります。
こうした機能を組み合わせることで、関心層を広げ、投票行動へとつなげる効果が期待できるでしょう。
リールを活用する
リールとは、最大90秒までの縦型ショート動画を投稿できる機能で、インスタグラムが近年特に注力しているコンテンツ形式のひとつです。ストーリーズが主にフォロワー向けの発信であるのに対し、リールは「発見」タブや「リール動画」タブを通じて、フォロワー外の幅広い層にリーチできる点が特長です。
手軽に視聴できる点が若年層の関心を集めており、「スキマ時間にずっと見ている」という人も少なくありません。選挙活動においても、候補者の人柄や活動内容を印象的に伝えるツールとして有効で、認知拡大や新規フォロワーの獲得が見込めます。
ショート動画の需要は今後さらに高まると見込まれており、有権者との接点を広げるうえでも、リールの活用は候補者にとってマストの施策といえるでしょう。
インスタライブを活用する
インスタライブは、スマートフォンひとつで手軽にライブ映像を配信できる機能です。街頭演説の様子をそのまま配信する使い方もありますが、視聴者との対話を目的としたライブ配信の方が、フォロワーとの距離を縮めるうえでは効果的です。数分でも顔を見せて話すことで、人柄や価値観がより伝わりやすくなり、信頼の醸成にもつながります。
また、ライブ配信はアーカイブとして保存・投稿することも可能なため、リアルタイムで見られなかったフォロワーにも情報を届けられます。共感や信頼の形成を目的に、定期的なライブ配信を取り入れていくとよいでしょう。
プロフィールにリンクを貼る
インスタグラムのプロフィール欄に設定できるリンクは、候補者や陣営の活動をさらに深く知ってもらうための重要な導線です。
プロフィールを訪れるのは、投稿を通じて関心を持ったユーザーであり、他の情報にもアクセスしたいと考えている可能性が高い層です。そうしたタイミングで、公式サイトやブログ、他のSNS、政策ページなどのリンクを掲載しておけば、より多角的な情報提供が可能となり、理解促進や信頼獲得につながります。
2023年からはリンクを最大5個まで設定できるようになったため、候補者の公式サイトや政策ページ、他のSNSアカウント、活動報告をまとめたブログなど、伝えたい情報に応じて適切に振り分けましょう。
インスタ投稿の選挙違反に関するよくある質問
ここでは、インスタグラムでの選挙運動に関してよくある質問を取り上げ、公職選挙法の観点から分かりやすく解説します。
インスタに投稿した画像を印刷して配るのは違反ですか?
はい、選挙期間中にインスタグラムへ投稿した画像を印刷して配布する行為は、公職選挙法に違反する可能性があります(公職選挙法第142条、第243条)。
SNSやウェブサイト上に掲載された選挙活動の画像や情報は、本来、画面上での閲覧を前提としたものです。それを印刷し配布する行為は、公職選挙法上「ビラ」や「ポスター」と同様の扱いとなります。こうした紙媒体には、サイズや枚数などの厳格な規定があるため、SNS投稿をそのまま印刷して配ることは、規格を逸脱した違法配布物と見なされるおそれがあります。
これは候補者本人に限らず、支援者による行為であっても禁止されているので、印刷物としての配布は絶対に避けましょう。
インフルエンサーに投票を呼びかけてもらうのは違反ですか?
条件次第で違反となる可能性があります。特に「報酬の有無」と「発信者の立場」に注意が必要です。
〈違反とならないケース〉
インフルエンサーが18歳以上の個人として、自発的に投稿している
選挙運動期間中に発信している
報酬や物品などの対価を一切受け取っていない
〈違反となるケース〉
報酬(金銭・物品など)を渡して投稿を依頼した場合
投票日当日に投稿するよう依頼した場合(選挙運動の禁止期間)
企業や団体の名義で投稿が行われた場合
つまり、18歳以上のインフルエンサーが、選挙運動期間中に個人として自発的に投稿し、報酬や物品の提供を一切受けていない場合は、違反にはあたりません。一方で、報酬を渡して投稿を依頼したり、企業名義のアカウントで呼びかけを行ったりすると違反となるおそれがあります。また、投票日当日の呼びかけも法律で禁じられているため注意が必要です。
公示日前に支援者が『◯◯さんに一票を!』とインスタに投稿するのは違反ですか?
はい、違反となります。
選挙運動は、公職選挙法によって期間が定められており、公示日(告示日)前に行うことは「事前運動」として禁止されています(公職選挙法第129条)。したがって、公示日前にインスタグラムなどのSNSに「◯◯さんに一票を!」と投稿することは、候補者・支援者・有権者を問わず公職選挙法違反と見なされる可能性があります。
まとめ
インスタグラムをはじめとするネット選挙運動は、初めのうちは難しく感じるかもしれませんが、最も重要なのは継続することです。駅頭での演説や朝の挨拶と同じように、毎日決めた時間に情報発信を積み重ねていくことで、少しずつ認知が広がり、信頼の輪も生まれていきます。
完璧を目指す必要はありません。自分のペースで無理なく続けることが、選挙本番に向けた大きな力になります。焦らず、できることから始め、少しずつ“伝わる発信”を積み上げていきましょう。