選挙に立候補するとき、真っ先に準備しなければならないお金があります。それが「供託金」です。選挙運動費用とは別に、立候補の届け出と同時に法務局に預けるこのお金は、一定の得票を下回ると国や自治体に没収されます。「供託金って何?」「没収されたらどうなるの?」という疑問を持ちながら準備を進めている方のために、この記事では供託金の仕組み・金額・没収ラインを選挙の種類別に整理します。
供託金とは、立候補の届け出に際して法務局(供託所)に預けるお金のことです。日本の公職選挙法に定められた制度であり、立候補者全員に納付が義務付けられています。
この制度が設けられている理由は、売名目的や嫌がらせ目的の乱立候補を防ぐためです。一定の得票を得られなかった場合に供託金を没収することで、真剣に当選を目指す候補者だけが立候補するよう促す仕組みになっています。
供託金は「預ける」お金であり、没収されなければ選挙後に返還されます。つまり一定の票を獲得できれば全額戻ってくるため、実質的な費用にはなりません。しかし没収ラインを下回ると、その全額が国庫または都道府県・市区町村の収入になります。立候補を検討している方にとって、この没収ラインは非常に重要な数字です。
供託金の金額は、選挙の種類によって異なります。国政選挙から地方選挙まで、主な選挙の供託金額を整理します。
市区町村議会議員選挙であれば15〜50万円と比較的手が届く金額ですが、知事選や政令市長選になると200〜300万円規模になります。供託金は選挙運動費用とは別に現金で用意する必要があるため、資金計画の初期段階で確認しておくことが重要です。
供託金が没収されるかどうかは、得票数が「没収点」を上回るかどうかで決まります。没収点の計算式は選挙の種類によって異なります。
没収点=有効投票総数 ÷ 候補者数 × 1/10
つまり、「1人当たりの平均票の10分の1」以上を獲得できれば返還されます。
没収点=有効投票総数 ÷ 議員定数 × 1/10
定数で割るため、候補者が多い選挙でも没収点の計算は定数基準になります。
具体例で考えてみましょう。ある市議会議員選挙で、有効投票総数が50,000票、議員定数が20人だった場合の没収点は次のようになります。
50,000 ÷ 20 × 1/10 = 250票
つまり251票以上を獲得すれば供託金30万円は返還されます。逆に250票以下しか取れなければ没収です。当選できなくても、一定の票を得ていれば返還されるという点は、多くの方が見落としがちなポイントです。
没収ラインを下回った場合、供託金は全額が国や地方公共団体の収入になります。候補者への返金は一切ありません。30万円が没収されれば30万円の損失、300万円が没収されれば300万円の損失です。
「出馬の記念に立候補した」「経験のために一度やってみた」という動機で出馬した場合、ほとんどのケースで没収ラインに届かず、供託金を丸ごと失うことになります。供託金制度はこうした「本気でない立候補」を抑制するために存在しているため、制度の目的通りの結果とも言えますが、当事者にとっては大きな痛手です。
また、没収されるかどうかに関わらず、選挙運動にかかった費用(印刷費・選挙カー代・事務所費など)は別途かかります。供託金が没収される得票水準の候補者は、選挙運動費用の公費負担も受けられないケースが多く、トータルの金銭的負担は相当な額になります。
ここで重要な認識のズレを整理しておきます。供託金の没収ラインはあくまで「供託金が戻ってくる最低ライン」であり、当選できるラインとはまったく別の話です。
市議会議員選挙で250票以上取れば供託金は返ってきますが、当選するためには定数に応じた競争を勝ち抜く必要があります。定数20の選挙区に70人が立候補する選挙では、250票では到底当選できません。「供託金が返ってきた=善戦した」ではなく、あくまでも最低限の得票水準をクリアしたということです。
立候補を検討する際は、没収ラインをクリアできるかという問いよりも、「当選ラインに届く票をどう積み上げるか」という問いに集中することが重要です。供託金の心配をする前に、現実的な勝算と準備計画を立てることに時間とエネルギーを使ってください。
供託金は立候補にかかるコストの一部に過ぎません。選挙を戦うためには、印刷費・選挙カー・事務所費・人件費・広報費など、さまざまな費用が積み重なります。市議会議員選挙でも準備期間から投票日までのトータル費用は200万〜500万円程度になることが多く、供託金30万円はその一部です。
一方で、公費負担制度を活用することで自己負担を圧縮できる部分もあります。選挙ポスターの掲示費用、選挙カーの燃料費、ハガキの一部などは公費で賄える場合があります。詳細は選挙管理委員会に確認することで、自分の選挙でどこまで公費が使えるかを把握しておきましょう。
また、政党公認を受けている場合は、政党からの資金援助が供託金の補填に充てられるケースもあります。無所属で戦う場合は全額を自分で用意する必要があるため、この点でも政党との関係は資金計画に影響してきます。
供託金は「払えばいいだけ」と思っていると、実際の手続きで面食らうことがあります。現金を法務局(供託所)の窓口に持参するか、銀行振込で納付するかという流れ自体はシンプルに見えますが、必要書類の準備、受付時間の制約、立候補届け出との時間的な連動など、初めて経験する人にとっては想定外の手間が重なります。告示直前のバタバタした時期に「窓口が閉まっていた」「書類が足りなかった」というケースも実際にあります。手続きの詳細と注意点については、別記事「供託金の払い方・手続き完全ガイド」で詳しく解説しています。
供託金の仕組みを理解することは、選挙準備の第一歩です。「いくら必要で」「何が返ってきて」「何が返ってこないのか」を正確に把握したうえで、資金計画と準備スケジュールを組み立てることが重要です。
「供託金は準備できるが、そのあとの選挙運動費用の見通しが立たない」という方、「どのくらいの票が見込めるか判断できない」という方も、一度全体像を整理してから動き出すことをお勧めします。