参議院選挙では、比例代表制が採用されていますが、2019年の参議院選挙から「特定枠」という新しい制度が導入されました。特定枠は、優先的に当選させたい候補者を政党が名簿上であらかじめ指定できる仕組みです。しかし、この特定枠制度について、具体的な内容や他の制度との違いを詳しく理解している人は、まだ多くないのではないでしょうか。
本記事では、特定枠制度の概要や導入の背景、従来の比例代表との違い、具体的な事例まで、わかりやすく解説します。
まずは参議院選挙の比例代表制について、簡単におさらいしておきましょう。
参議院選挙における比例代表制は、有権者が政党名や候補者名を投票用紙に記入し、その得票数に応じて各政党に議席が配分される制度です。具体的には、全国を一つの選挙区とし、政党ごとの得票数に比例して議席数が決まります。
比例代表では、有権者は「政党名」を書くことも「候補者名」を書くことも可能で、いずれの票も政党への支持として集計されます。最終的に、各政党が提出した名簿順に従い、得票に応じた人数が当選する仕組みです。
従来、この名簿は基本的に候補者間で順位を争う『非拘束名簿式』が採用されていました。
ここで登場するのが2019年の参議院選挙から新たに加わった「特定枠」という制度です。以下でその仕組みや導入の背景、運用の詳細について、詳しく見ていきましょう。
特定枠制度とは、比例代表制において、各政党が「この候補者は優先的に当選させたい」と判断した人物を、名簿の上位にあらかじめ固定できる仕組みです。これにより、たとえその候補者本人の得票数が少なくとも、政党全体の得票に基づき確実に当選できるのが特徴です。
つまり、党が強く推したい候補者や、特定の政策実現に不可欠な人材を国会に送り込むために活用されるのがこの特定枠です。この仕組みによって、これまで選挙で不利とされてきた人々や、地域的な事情を抱える候補者にも当選の道が開かれるようになりました。
なお、特定枠を設けるかどうか、またその人数は、各政党の判断に委ねられています。
特定枠は、衆議院の比例代表選挙で採用されている「拘束名簿式」と一部似た構造を持っています。拘束名簿式では、政党が事前に決めた名簿順に従って、政党の得票に応じて上位から順に当選が決まる仕組みです。
一方、参議院の比例代表選挙は基本的に「非拘束名簿式」が採用されており、有権者は候補者個人の名前を書いて投票し、個人票の多い順に当選者が決まります。
特定枠は、非拘束名簿式の中に、部分的に拘束名簿式の要素を取り入れた、ハイブリッド型の仕組みです。原則は個人票で順位が決まりますが、政党が指定した特定枠の候補者だけは、名簿順位が固定され、得票数に関係なく当選が確保されます。
特定枠は、2016年の参議院選挙から導入された「合区」制度が大きな契機となって誕生しました。合区とは、1票の格差を是正するために、人口の少ない県同士を一つの選挙区にまとめる制度で、現在(2025年)は『鳥取県・島根県』『徳島県・高知県』がそれぞれ一つの選挙区になっています。
しかし、2つの県が1つの選挙区になると、基本的に1人の議員しか選出されません。そのため、どちらか一方の県からしか候補者を立てることができず、もう一方の県の声が国政に届きにくくなってしまうのです。
こうした課題を解消するため、自民党は「特定枠」を新設し、合区で候補を立てられなかった県からも比例代表を通じて確実に議員を送り出せる道をつくったのです。
また、特定枠には国政上有益な人材の当選機会を確保するという狙いもあります。従来の参議院比例代表制では、候補者個人の得票数によって当選が決まるため、全国的な知名度や支持がないと当選が難しいという側面がありました。
しかし、専門分野に特化した有識者や、特定の民意を強く反映する人材など、国政にとって重要でありながら、個人の力では当選が困難な候補者は数多く存在します。特定枠は、このような「国政上有益な人材」が、政党の判断によって優先的に当選できる仕組みを提供することで、多様な人材を国会に送り込むことを目指しています。
比例代表の名簿は、政党が選挙管理委員会に提出する際に、
この二層構造で作成されます。
有権者は、選挙の投票用紙に、いつも通り「政党名」あるいは「候補者名」のどちらかを書いて投票します。ここで重要なのは、特定枠に記載された候補者の名前を書いても、その候補者の順位や当落には影響を与えない、という点です。
特定枠の候補者は、あくまでも政党が得た議席の中で、票数に関係なく優先的に当選します。つまり、有権者は政党を選ぶことはできますが、特定枠に誰を入れるか、あるいはその順番については、選挙の段階ではすでに確定しており、変更することはできません。
このように、「有権者の意思では動かせない枠」として、制度上しっかり区別されているのです。
参議院特定枠制度の最大のメリットは、比例代表選挙において、党が特に優先したい候補者を確実に当選させることができる点です。たとえば、障がい者や社会的に弱い立場の人、地域や業界の代表といった、通常の選挙戦ではなかなか当選が難しい候補者にも、政治参加の機会を広げることができます。
しかし一方で、候補者本人の得票数にかかわらず当選が保証されるため、有権者の意思が反映されにくいとの批判もあります。また、党内での人選が不透明になりやすく、政治の公正さが損なわれる懸念も拭いきれません。この制度は「多様性の確保」と「民意の尊重」のバランスをどう取るかが問われています。
ここからは、実際の参議院選挙において、特定枠がどのように使われ、どのような候補者が当選したのか、具体的な事例を通して確認していきましょう。
2019年の参議院選挙では、政党としては「自民党」と「れいわ新選組」が特定枠を活用しました。自民党は「合区」対策として、地域代表の候補者を特定枠に設定し、当選に導きました。
一方、れいわ新選組は、ALS患者の舩後靖彦氏と重度障害のある木村英子氏を特定枠1位と2位に設定。選挙運動が困難な2人を政党の裁量で優先的に当選させました。この結果、障がいを持つ2人が初めて国会議員となり、大きな社会的注目を集めました。
さらに2022年、れいわ新選組は四肢のまひや発話障害を患う天畠大輔氏を特定枠候補とし、再び議席を獲得しました。
自民党は「地域の声」を守るために、れいわ新選組は「社会的弱者の声」を届けるために、それぞれの戦略として機能してきたと言えます。
特定枠の候補者は、通常の比例候補と違い、選挙運動に大きな制限が課されます。
特定枠の候補者は、個人の名前ではなく政党名で投票される仕組みのため、自らの名前を使った選挙活動や得票獲得のための運動は基本的に認められていません。街頭演説やポスター、選挙公報などで個人名を前面に出すことができず、党の名前でしか戦えないのが特徴です。
これは「票を争う立場ではない」という制度の性質に沿った合理的な仕組みですが、候補者にとっては知名度を高める機会がほとんどありません。また、制度自体が十分に周知されていないため、有権者の理解不足や混乱を招いているのが現状です。
参議院特定枠制度は、政党にとって選挙戦略の一部として活用されています。特に、票の掘り起こしが難しい分野の候補者を特定枠に設定することで、党の社会的評価を高める狙いがあります。
ただし、特定枠に入った候補者は、選挙戦を個人で戦うことできないため、比例名簿下位の候補と比べると、有権者との直接的な接点が減る傾向があります。結果として、候補者本人の政策発信力や地盤づくりが弱くなりがちで、当選後の政治活動にも影響を及ぼすことがあります。
政党にとっても、使い方を誤れば支持離れにつながるリスクがあると言えるでしょう。
特定枠は比較的新しい制度で、具体的な内容や運用について疑問を持つ方も少なくありません。ここからは、参議院選挙の「特定枠」に関して、よくある疑問をピックアップし、一つひとつ分かりやすく解説していきます。
特定枠の候補者になるためには、まず政党の推薦を得ることが大前提です。比例代表に立候補する時点で、政党が名簿を作成し、その中で「特定枠」として優先的に議席を与えたい人物を指定します。つまり、候補者自身が「特定枠を希望したい」と申し出ることはできず、あくまで政党側が戦略的に判断して決める流れです。
選考の基準は政党ごとに異なりますが、合区で立候補できなくなった県の候補者、障がいを抱える方、または特定の専門分野で実績がある人などが選ばれやすい傾向にあります。要するに、特定枠は政党が「この人こそ必要だ」と見込んだ人材に対して用意される特別なポジションだと言えるでしょう。
衆議院の比例代表は、政党があらかじめ当選順位を決めておく「拘束名簿式」が原則です。有権者は候補者個人の名前を書くことができず、政党名だけで投票することになります。そのため、政党が決めた名簿の順位がそのまま当選順になります。
一方、参議院の比例代表は「非拘束名簿式」が基本で、有権者が候補者個人の名前を書くことができ、その個人票の多さで当選順位が決まるのが特徴です。
ここに、特定枠という例外が加わっています。特定枠の候補者は、政党が優先的に選んだ人で、個人の得票数にかかわらず、政党が獲得した議席の中で当選が確定します。この点が、衆議院と参議院の比例代表を分ける大きな違いです。
結論から言うと、特定枠の候補者に対して有権者が名前を書いても、その票は個人得票としてはカウントされません。
特定枠の候補者は、政党の得票数に応じて、個人の得票数とは関係なく当選が決まる仕組みです。有権者が候補者名を書いた場合、その票は政党全体の得票には加算されますが、特定枠の候補者自身の順位や当落には一切影響しないのです。
この点は、非拘束名簿式で立候補している一般候補者と大きく異なるポイントです。
特定枠の候補者が落選した場合でも、通常の候補者と比べて大きく不利になるわけではありません。むしろ、特定枠での落選は、あくまで政党全体の得票が不足した結果にすぎず、候補者個人の評価が直接問われるわけではない点が特徴です。
ただし、特定枠に選ばれたということは、党内で重要視されていることの証でもあるため、仮に落選しても、次回の選挙や他の政治活動の場で引き続き支援を受けやすい傾向があります。一方で、特定枠は政党が「優先的に当選させたい人材」として選ぶ枠なので、もしその候補者が落選すると、政党の戦略が不発に終わったと見なされる場合もあります。
いずれにしても、落選後の扱いは各政党の方針や政治状況によって異なります。
特定枠で当選した議員も、基本的には他の比例代表議員と同じように国会での活動を行います。
ただ、特定枠で選ばれる背景には、党が重点的に支援したい政策や、地域的・社会的な役割を担うことが期待されている場合が多く、党内で特定のミッションを与えられるケースもあります。たとえば、障がい者の代表、合区対象地域の代表、あるいは特定の業界団体の代弁者といった立場です。
とはいえ、立場自体が特別扱いされることはなく、議員としての権限や任期は他の議員と全く同じです。
参議院選挙の「特定枠」は、従来の非拘束名簿式に、一部だけ拘束名簿式を組み合わせた仕組みです。この制度では、政党が「必ず当選させたい」と考える候補者を事前に指定し、その候補者が優先的に当選できるようになっています。
この仕組みのおかげで、これまで選挙で不利とされてきた人々や、合区(選挙区の統合)によって立候補が難しくなった地域の代表者にも、国政に参加するチャンスが広がりました。
一方で、特定枠に入った候補者の当選順位は、有権者の投票では変わりません。誰に一票を投じても、特定枠の順番が変わることはありません。この点は理解しておく必要があります。
「私たちの当選・再選GO!は、政治家・選挙立候補者の方へ向けweb制作・選挙、政治活動用の動画制作、名刺デザイン等を行っており、あなたの挑戦をトータルでサポートします。」
「ご相談は無料です。あなたの志を、現実の力に変えるために。ぜひ一度、お気軽にお問い合わせください。」