政治家や候補者にとって、SNSは今や欠かせない情報発信ツールとなりました。選挙のたびに話題になるSNSの投稿やバズり戦略は、有権者の投票行動に少なからぬ影響を与えています。しかし、政治活動中の発信にはいくつかルールが設けられており、場合によっては公職選挙法違反に問われるリスクもあるため、十分に注意しなければなりません。
本記事では、SNSを使った政治活動の重要性とそのメリットを改めて整理しながら、禁止事項や投稿時に注意すべきポイントを詳しく解説していきます。
今やSNSは、政治活動に欠かせないインフラの一つとなりました。SNSを通じて有権者に政策を伝え、信頼を得ることができるかどうかが、選挙戦を大きく左右する時代に突入しています。
ここではまず、SNSを使った政治活動がなぜ重要視されているのか、現代のメディア環境や有権者の行動変化をふまえて見ていきましょう。
2020年代に入り、日本でも「ネットがテレビを超えた」と言われる時代が到来しています。総務省情報通信政策研究所が発行した「令和5年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書 <概要>」によれば、平日のネット利用時間は全年代平均で1日あたり約194分。一方、リアルタイムでのテレビ視聴は135分にとどまり、ネットがテレビを上回る結果となりました。
特に10代ではネットが約258分、テレビ視聴はわずか約39分と、情報源の中心が完全に移行しています。こうした傾向は20代でも顕著で、政治情報に触れる場がネット中心へとシフトしているのは明白です。もはや、SNSやウェブを制する者が、有権者の心をつかむ時代に入っていると言えるでしょう。
近年、SNSをはじめとするネット上の情報が、有権者の投票行動に実質的な影響を与えていることは、各種調査からも明らかになっています。
たとえば、2022年の参議院選挙に際して行われた全国意識調査では、政党や候補者のホームページ、SNSなどのネット上の情報に触れた人のうち、61.8%が「投票先を決める際に役に立った」と回答しました。これは、選挙公報(51.3%)や政見放送(47.8%)よりも高く、従来の公的な選挙情報よりも、ネットの発信が有権者の意思決定に強い影響を与えていることが読み取れます。
特にSNSは、候補者の言葉や考え方がストレートに伝わる媒体です。投稿の内容、言葉遣い、リアクションへの対応ひとつで、候補者への印象が大きく左右されます。加えて、SNSではフォロワーのシェアによって情報が二次的に拡散され、本人が直接つながっていない有権者にまで影響を及ぼします。こうした特性は、現代の選挙活動において欠かせない要素となっており、情報の発信力そのものが勝敗を左右すると言っても過言ではありません。
公示前は、投票の呼びかけはもちろん、選挙運動にわたる行為が全面的に禁止されている期間です。では、この時期にLINEを通じて行えることには、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、政治活動の範囲内で可能なLINEの活用方法をご紹介します。
参照:公明党
政治家のインターネット活用は、選挙戦略の一環として急速に広がっています。選挙ドットコムが実施した2022年の調査によると、709人の国会議員のうち、97%以上がホームページやブログを運用し、Facebookの利用率も90%を超えるなど、SNSは既に基本的な情報発信インフラとして定着しています。
一方で、どのSNSをどう活用しているかという点では議員ごとの戦略に差があります。たとえば、参議院議員は衆議院議員と比べてYouTubeやInstagram、LINE公式アカウントなどの新しい媒体に対して積極的です。YouTubeに限れば、参院議員の開設率は衆院議員よりも約20%高いという結果も出ています。
SNS活用の様相は、ここ数年で大きく変わってきました。かつて主力だったFacebookに代わり、2019年の参院選ではTwitterが台頭。山田太郎議員のように、テレビ露出が少なくてもSNS戦略で大きな成果を上げた事例もありました。れいわ新選組やNHKから国民を守る党など、従来メディアに頼らずともSNSで議席を獲得する新勢力も登場しています。
かつて「SNSでは票が取れない」「ネットは炎上リスクが高い」といった懐疑的な声も多く聞かれましたが、そうした認識も徐々に変化しています。今後の選挙戦においても、政治家のSNS戦略が票の行方を左右する大きなファクターとなるでしょう。
では、なぜこれほど多くの政治家がSNSを活用しているのでしょうか。ここからは、SNSを使った政治活動がもたらす具体的なメリットについて詳しく解説します。
SNSを使った政治活動の最大のメリットは、時間や場所にとらわれず、政策や意見を即座に発信できる点です。たとえば、国会審議の直後に自身の見解を投稿したり、災害や事件が発生した際に対応方針をいち早く知らせたりと、スピード感をもって情報を届けられます。
従来のように記者会見やプレスリリースを通じて発信する場合、タイムラグや編集を経て情報が伝わることが一般的でした。しかしSNSでは、自らの言葉でそのまま発信できるため、意図のズレが生じにくく、フォロワーとの信頼関係構築にもつながります。
また、投稿に対して寄せられたコメントやリアクションを通じて、支持者や有権者の反応をその場で把握できることもSNSの特徴です。こうしたリアルタイム性は、迅速かつ柔軟な政治対応を求められる現代において、有効な手段といえるでしょう。
文字情報に加え、画像や動画といった視覚的なコンテンツを組み合わせて情報発信ができることもSNSを活用するメリットです。政治の話題は、どうしても専門用語や制度の背景が絡み、文章だけでは難解で堅苦しくなりがちです。その結果、有権者にとっては理解のハードルが上がり、内容への関心や共感を得にくくなることも少なくありません。
しかし、たとえば予算案の使途を図解で示す、あるいは現場視察の様子を短い動画で紹介したりすれば、情報が視覚的に整理され、複雑な内容も直感的に伝わりやすくなります。特に動画は情報量が豊富で、話し方や表情から候補者の人となりまでも伝えることができるため、「この人は実際に現場を見て、しっかり考えているんだ」といった印象を持ってもらいやすくなります。
最近では、自身の政策をアニメーションでわかりやすく解説したり、演説をショート動画に編集して発信したりと、視覚的な工夫を凝らす政治家が増えてきました。SNSというツールを通じて、政治がもっと身近に、もっと分かりやすくなる。その鍵を握っているのは、いかに視覚コンテンツを活用するかにあるのかもしれません。
SNSは、従来の選挙活動ではアプローチが難しかった若年層や無党派層へのリーチ手段としても有効です。特に10〜30代の多くは、新聞やテレビよりもSNSを主要な情報源としています。この世代に直接メッセージを届けるには、タイムラインや動画プラットフォームを活用した情報発信が欠かせません。
また、SNSはフォロワー同士のシェアやコメントによって情報が広がりやすく、信頼する友人やインフルエンサーの投稿を通じて政治的な話題に触れる機会も増えています。実際、SNSを積極活用した候補者が若年層の支持を集めて当選した例も増えており、政治参加を促す新たなチャネルとしての重要性は今後さらに高まっていくでしょう。
SNSは政治家や候補者にとって、政策の周知や有権者との対話に欠かせないツールとなりました。しかし、表現の自由が認められる政治活動と、公職選挙法の厳格な規制がかかる選挙運動の間には明確な線引きがあり、それを理解しないまま発信すれば、意図せず違法行為に該当してしまうリスクもあります。
ここでは、政治活動と選挙運動の基本的な違いと、SNS活用時の注意点を解説します。
政治活動とは、公職選挙法において「政治上の目的をもって行われる一切の活動から、選挙運動にわたる行為を除いたもの」を指します。
日本国憲法では、第19条で思想・良心の自由が、第21条で集会結社・言論の自由が保障されており、これに基づき、政治活動は原則自由とされています。したがって、特定の候補を支持したり票を求めたりすることがなければ、SNS上での情報発信も法律上の制限を受けることはありません。
具体的には、次のような活動が政治活動として認められています。
・政策の考え方や理念の普及・説明をSNSに投稿すること
・所属政党や後援会の活動報告、イベント告知の発信
・街頭演説や講演会の様子をSNSで写真や動画付きで紹介すること
・有権者との意見交換やQ&AをSNSで行うこと
では、政治活動と選挙運動の違いはどこにあるのでしょうか。
選挙運動とは、「特定の選挙において、特定の候補者の当選を目的として、投票を得または得させるために直接または間接に必要かつ有利な行為」を指します。簡単に言えば、特定の選挙で誰かを当選させるための活動が選挙運動であり、それ以外の、理念の訴えや政策の紹介、政党活動などは、政治活動ということになります。
この違いは、活動の「目的」と「時期」によって明確に区別されます。政治活動は基本的に通年で自由に行えますが、選挙運動には厳格な期間が定められており、「公示日(または告示日)から投票日の前日までの間」でしか行うことができません。それ以外の期間に選挙運動を行うと、「事前運動」として違法となる恐れがあります。
この点はSNSでの発信も例外ではありません。たとえば、公示日前に「次の〇月の選挙では、ぜひ○○に一票をお願いします」と投稿すれば、それは選挙運動とみなされ、公職選挙法違反に問われる可能性があります。
「知らないうちに法律違反をしてしまっていた」とならないためにも、情報発信を行う際は、選挙活動を行う本人はもちろん、支援者やボランティアも含め、適切なリテラシーと法的理解が求められます。
SNSを利用した政治活動は身近なものとなりつつありますが、その一方で「これを投稿しても大丈夫なのか」と不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
ここからは、SNSを使った政治活動に関するよくある質問について、公職選挙法との関係を踏まえて解説します。
はい、選挙ボランティアの募集については、時期と表現に注意を払えばSNS上での呼びかけも適法に行うことができます。公職選挙法では、選挙運動の開始は原則として公示日または告示日以降と定められていますが、ボランティアの確保や後援会活動、スタッフ体制の構築は「政治活動」に含まれるため、選挙の準備行為として認められています。したがって、SNSでの募集も可能です。
ただし、「○○選挙で勝たせてください」といった当選を目的とする表現は、時期によっては事前運動と判断されるリスクがあるため避けなければなりません。選挙ボランティアを募集する際は、「ボランティアとしてご協力いただける方を募集しています」といった表現にとどめるのが望ましいでしょう。
いいえ、政治活動中に次の選挙で使用する「名前入り」のたすき画像を使った投稿は、公職選挙法上「文書図画」に該当し、違法とされています(公職選挙法第143条)。たすきは、一般に「選挙に出る者」であることを示すアイテムであり、次の選挙で使用する氏名付きたすきを事前に着用・投稿すると、「事前運動」とみなされる恐れがあります。
一方、政治活動でたすきを使用すること自体は問題ありません。違法リスクを回避するためには、「名前なしのたすき」を使用するか、たすき画像の投稿を控えるのが適切といえるでしょう。
当選後、SNSで感謝の意を表明する投稿を行うことは、公職選挙法上、特に問題ありません。選挙後の「あいさつ行為」については、一定の制限が設けられていますが、これは主に電話や訪問、文書郵送など、選挙運動の延長として見なされる行為を対象としたものです。一方で、インターネットやSNSを通じたあいさつ行為については、例外的に認められています(公職選挙法第178条)。
ただし、あくまで選挙の結果に対する「お礼」や「報告」にとどめることが前提です。たとえば、「次も応援よろしくお願いします」や「引き続きご支援を」など、将来の選挙を念頭に置いた表現は選挙運動に該当する可能性があるため注意してください。
そもそもLINE公式アカウントとは、企業や団体、個人が情報発信を目的として開設できるビジネス向けのアカウントです。通常の個人アカウントとは異なり、複数人(1アカウントで最大100名まで)による運用管理が可能で、メッセージの一斉配信・タイムライン投稿・リッチメニューの設置など、情報発信を効率化するための多彩な機能が備わっています。
政治活動においては、候補者や後援会が有権者と直接つながり、政策の説明、活動報告、街頭演説や講演会の告知などをリアルタイムで発信するツールとして活用されています。
SNSは、政治家にとって有権者と直接つながる重要な発信手段です。政策の周知や支持の獲得に活用できる一方で、公職選挙法をはじめとした法的規制を正確に把握し、適切に運用することが求められます。
特に、選挙期間外での候補者名の露出や、特定の候補への投票を呼びかける投稿などは「事前運動」とみなされ、違法となるおそれがあります。
SNSを使った政治活動では、情報の拡散力が高い分、責任ある発信が不可欠です。投稿内容が選挙運動と受け取られないよう、基本的なルールと法的枠組みを理解したうえで効果的に活用していきましょう。