日本で選挙に立候補する場合、「必要な手続き」「準備すべき物」「選挙資金の公費負担」「返金(返還)される条件」など、押さえておくべき項目は非常に多いです。特に公費負担は、選挙活動にかかる膨大な費用の一部を補填してくれる重要な制度ですが誤解や不明点が多く、正しく理解できていない方も少なくありません。
この記事では、選挙に出る前に知っておくべきすべてのポイントを初めて立候補する人にも分かるよう丁寧に解説します。
選挙は「準備が9割」と言われます。立候補には法的な手続きのほか、実務面で必要な人員・物品・体制づくりが不可欠です。
立候補には以下が必要です。
■供託金の納付
* 衆院小選挙区:300万円
* 衆院比例代表:600万円
* 参院選挙区:300万円
* 参院比例代表:600万円
* 地方選挙:30万〜100万円ほど(自治体による)
供託金は一定得票に届けば返還されますが、基準に届かないと没収されます。
■立候補届の提出
* 必要書類(推薦状、戸籍謄本、経歴申請書など)
* 選挙事務所の届け出
* 選挙運動用自動車の届け出
など
選挙は1人では戦えません。主に以下の役割が必要になります。
* 選挙事務長(事務局のトップ)
* 会計責任者(収支報告書の最終責任者)
* 運動員(ポスター貼り、電話かけ、駅頭ボランティア、戸別訪問NGのため事務所スタッフなど)
* ウグイス嬢(選挙カーアナウンス)
* ポスター掲示スタッフ(ボランティア)
* SNS・広報担当
法律上、支払いできる報酬には制限があり、特にウグイス嬢と選挙カーのレンタル費・運転手・ガソリン代は公費負担で賄われるルールとなっております。(後述)。
選挙事務所の確保
選挙カー(レンタル可)
看板・のぼり
選挙ポスター
名刺・チラシ(ビラ)
拡声器
SNS運用環境
衣装(ジャンパー、たすき)
【重要】公費負担の対象は“限定的”で、自治体ごとに異なる
以下の項目のうち、公費負担の対象になるのは次のような“特定の費目”のみです。
● 選挙ポスターの印刷費
● 選挙運動用自動車の借上料(選挙カーのレンタル代)
● ガソリン代(燃料費)
● 車上運動員(ウグイス)や手話通訳者の報酬
── いずれも自治体ごとに上限額あり
チラシ(選挙運動用ビラ)が公費負担されるかどうかは自治体の条例によって異なります。
大田区・市川市など → 公費負担あり
多くの市議選・県議選 → 公費負担なし
全国共通の制度ではありません。
【運転手代について】
選挙カーの“運転手代”についても全国一律ではなく、
自治体の条例で公費負担の対象になる場合と、対象外になる場合があります。
(※大田区は対象、対象外の自治体も多い)
【公費負担されないもの】
なお、以下は 公費負担の対象外です:
ポスターを貼る作業費
SNSスタッフの報酬
動画撮影・編集費
名刺・のぼり・看板類の製作費
選挙事務所の賃料
ボランティアへの手当
公費負担制度とは、選挙にかかる一定の費用を税金で補助する仕組みです。
背景として、選挙費用の高騰が問題になり「資金力のある候補者だけが有利になる」ことを防ぐ目的があります。国政選挙・地方選挙ともに用意されていますが、自治体ごとに細かいルールが異なる点に注意が必要です。
選挙で公費負担される主要な費目は次のとおりです。
もっとも代表的な公費負担。
* 選挙管理委員会が定めた上限額まで公費負担
* 業者支払いは自治体が直接行う方式が一般的
* A3サイズなど規定あり
選挙区が広いほど掲示板数が多くなるため、ポスター代が高額になります。公費負担は候補者にとって非常に助かる制度です。
* レンタカー代
* ドライバーの給与(自治体によって制限あり)
* 燃料費(上限あり)
形式は「候補者 → 業者に支払い → 選管が候補者へ返金」または「選管が業者に直接支払い」など自治体により異なります。
公職選挙法で公費負担が認められている項目は、
● 選挙運動用自動車の費用
● 車上運動員(いわゆるウグイス)の報酬
● 選挙ハガキの郵送料
● 選挙公報の掲載費
● 選挙ポスターの印刷費
など、明確に「限定列挙」されています。
そのため、ポスター貼りの作業員に報酬を支払うと、公費負担の対象外であるだけでなく買収(違法報酬)の疑いを持たれやすいため極めて注意が必要です。また、SNS配信や動画撮影などは選挙運動として行うこと自体は可能ですが、公費負担の対象ではなくスタッフの報酬を公費から支払うことはできません。
以上のように、選挙の公費負担は対象範囲が厳格に定められており、特に「人件費」が補助されるケースは非常に限定されています。
公費負担の対象になるのは、「選挙運動用自動車に設置された拡声器」だけです。
つまり:
✔ 選挙カーに備え付けの拡声器 → 公費負担 OK
✘ 街頭演説で使うポータブルスピーカー → 公費負担NG
✘ スタンド型スピーカー → 公費負担NG
✘ 手持ち拡声器(メガホン) → 公費負担NG
拡声器は「車両に設置されたもの」に限定されています。選挙公報(印刷物)は自治体(選挙管理委員会)の公費で作成されますが、そのうち 点字版・音声版・デイジー版など“障害者向けの選挙公報”は自治体が独自に作成する場合がある というのが正確です。
ただし:
・候補者が点字版を作るわけではない
・候補者に公費が払われるわけではない
作成義務がある自治体・ない自治体がある(地域差あり)
つまり、“候補者の費用として公費負担されるわけではない” のです。
公費負担費用の多くは、“無条件でもらえる”わけではありません。
返金されるためには 一定の得票数 が必要です。
多くの選挙で「有効得票の10%(もしくは供託金没収ラインと同じ基準)」が採用されています。
例:
* 衆議院小選挙区:有効投票総数の10%以上
* 参議院選挙区:同じく10%以上
* 市議・県議:選挙ごとに異なるが多くが同基準
つまり、「最低限の得票をしないと公費負担は返金されない」仕組みとなっております。
供託金が没収されるライン(有効投票の10%)と、公費返還ラインが同じ自治体が多いです。
つまり:
* 供託金返還 = 公費負担返還
* 供託金没収 = 公費も返還されない
という対称的な構造となっております。
ではどんな場合に公費負担が返ってこないのか?
こちらが最も多いケースです。
例:
供託金没収ライン10% → 得票が7% →
* 供託金没収
* 選挙ポスターの公費負担も返金されず自腹
* 選挙カー費用も返金されず自腹
となります。
公費申請書のミスや期限切れは返金されません。
特に「領収書の形式違反」「口座情報の誤記」はよくある失敗です。
虚偽請求はもちろん、
* ウグイス嬢を規定時間以上働かせた
* 実際の金額より高い請求をした
などの場合は返金どころか 刑事罰の対象 となります。
SNS広告、動画制作費、飲食費など、選挙運動に見えるものであっても対象外の場合が多く、公費負担は認められません。
選挙が終わったら会計責任者は以下を必ず行う必要があります。
* 選挙運動費用収支報告書
* 領収書(原本)
* 雇用関係の証明
* 契約書、業者見積もり
これらを基に、選挙管理委員会が審査を行い公費の返金が行われます。
自治体ごとに専用の様式があり期限厳守です。
選管の審査は厳しく少しでも不備があると差し戻されることになります。
収支報告書の提出は、当選・落選に関係なく義務づけられています。
提出しなかった場合は30万円以下の罰金が科される可能性があり、罰金刑が確定すると一定期間 “公民権停止”(選挙権・被選挙権等の制限)が付く場合があります。
非常に重要な義務であり、選挙後も必ず期限内に提出する必要があります。
選挙は法律と制度に縛られながら進められ、以下は特に重要です。
多くの候補者が陥る罠が「お金の使途のルールを知らずに違反してしまう」ことです。
公費負担制度を正しく理解していれば、
* 無駄な支出を防げる
* お金をかけられない候補者でも戦える
* 公費でカバーできる部分を最大限活用できる
というメリットがあります。
昔は街宣車とチラシが中心でしたが、いまは候補者のSNS発信が最重要となっております。
ただしSNS広告は公費負担の対象外となります。
選挙運動員(ウグイス嬢・選挙カー運転手など)の管理は、選挙におけるコンプライアンス上もっとも重要なポイントのひとつです。報酬額・人数・活動時間などには厳格な上限があり、違反すると“買収”として扱われ、最悪の場合は刑事罰に加えて、当選無効や公民権停止につながることがあります。
そのため、選挙事務所では運動員の契約・出勤簿・活動実績の管理を極めて慎重に行う必要があります。
選挙は「想い」だけで勝てるものではなく、綿密な準備・十分な資金・そして制度の正しい理解 が揃ってはじめて“戦える状態”になります。特に、勘違いされやすいのが 公費負担制度 です。公費負担を正しく理解することは、単に費用を節約するだけではありません。
● 無駄なリスクを避け、違反を未然に防ぐ
制度を誤解したまま選挙に突入すると、「これも公費で出ると思っていた」「運動員への支払いは合法だと思っていた」という勘違いが命取りになります。最悪の場合、当選しても 当選無効や公民権停止 のリスクに直結します。
● 供託金没収のリスクを減らす
公費負担の適用範囲を理解し、費用の配分を最適化することで、限られた資金でも効果的な戦い方が可能になります。結果として、得票を伸ばしやすくなり、供託金没収ラインを避けやすくなります。
● 選挙全体の費用を大幅に下げられる
選挙に必要な費用は、正しく制度を使えば数十万円単位で変わります。
公費負担の対象・対象外の線引きを理解することは、“選挙費用の透明化”にもつながり、長期的な政治活動の安定にも寄与します。
公費負担制度は複雑に見えますが、基本の仕組みとNGポイントさえ押さえれば実はそれほど怖いものではありません。この記事で紹介した内容を理解しておけば、初めて選挙に挑戦する方でも「制度上の大きな落とし穴」を確実に避けられ安心して選挙準備を進めることができます。
さらに一歩踏み込んだ実務的な内容(報告書の書き方、運動員の管理、収支の組み立て方など)が必要であれば、専門家に相談することで負担は劇的に軽くなります。
選挙は、正しく知れば勝ち筋が見える。
制度を味方につけて後悔のない選挙を目指しましょう。