「来たる市議会議員選挙や区議会議員選挙に向けて、地域のために立ち上がりたい!」
熱い想いを胸に、政治活動を始めようとするあなた。まずは自身の活動を知ってもらうために、ホームページやビラ、名刺の準備を考えていることでしょう。
その時、あなたの肩書として「●●市議会議員 立候補予定者」「●●市議会議員 立候補予定者」と記載しようとしていませんか?
実はその表現、公職選挙法における「事前運動」とみなされ、違法となる可能性が極めて高い、非常に危険な一歩です。最悪の場合、警告や罰則、さらには苦労して当選しても「当選無効」となるリスクすらあります。
この記事では、なぜ「立候補予定者」という表現が使えないのか、その法的根拠から、ではどのような表現なら安全なのか、そして具体的なケース別のQ&Aまで、選挙コンサルタントがプロの視点で徹底的に解説します。クリーンで正々堂々とした活動の第一歩として、ぜひ最後までお読みください。
この問題を理解するための最も重要な鍵は、公職選挙法が定める**「政治活動」と「選挙運動」**という2つの概念の違いを明確に理解することです。
選挙運動とは、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義されています。
簡単に言えば、「次の●●選挙で、私(あるいはこの人)に投票してください!」とお願いする全ての活動がこれにあたります。
この選挙運動は、公平性を保つために厳格に期間が定められており、立候補の届出があった日から、投票日の前日までしか行うことができません。この期間外に行う選挙運動は、すべて**「事前運動」**として固く禁じられています。
政治活動とは、「政治上の目的をもって行われるいっさいの活動から、選挙運動にわたる行為を除いたもの」とされています。
こちらは、特定の選挙とは切り離して、自身の政治理念や政策を訴えたり、国や地域の問題について見解を述べたり、後援会を組織して仲間を募ったりする活動を指します。こちらは、原則として選挙期間外でも自由に行うことが可能です。
【例え話】陸上競技に例えると…
選挙運動は、オリンピックの「決勝レース」そのものです。号砲(立候補届出)からゴール(投票日前日)まで、ルールに則って全力で走ることが許されます。
政治活動は、決勝レースに向けた日々の「トレーニング」です。政策という基礎体力をつけ、後援会というチームを作り、演説というフォームを磨く。トレーニングは年間を通して可能ですが、フライングして決勝レースを始めてはいけないのです。
「立候補予定者」という表現の問題は、この「トレーニング」期間中に、「次のオリンピック決勝に出ます!」とゼッケンをつけて走ってしまう行為、つまりフライング(事前運動)と見なされる点にあります。
では、なぜ「●●市議会議員 立候補予定者 ●●」という肩書が、事前運動と判断されてしまうのでしょうか。その表現を分解してみると、理由が明確になります。
1.「●●市議会議員(選挙)」 → 【特定の選挙】を明示している
2.「立候補予定者」 → 【特定の候補者】が当選を目指す意思を明示している
3.「氏名 ●●」 → 【特定の候補者】そのものを明示している
この3つの要素が組み合わさることで、「●●市議会議員選挙という特定の選挙で、候補者●●が当選を目的として活動している」という構図が完成してしまいます。
これは、まさに「選挙運動」の定義そのものです。
有権者がこの表記を見れば、「ああ、この人は次の市議選に出るから、投票してほしいんだな」と解釈するのが自然です。そのため、たとえビラに「投票をお願いします」と直接書いていなくても、この肩書自体が投票依頼、すなわち選挙運動と見なされてしまうのです。
これは、ホームページのプロフィール欄、ブログ記事、SNSの自己紹介、ビラ、ポスター、名刺など、媒体を問わず適用されます。
では、事前運動と見なされないためには、どのような表現を使えば良いのでしょうか。安全な表現と、注意が必要なグレーゾーンの表現を具体的に見ていきましょう。
ポイントは、「特定の選挙」と「立候補の意思」を直接結びつけないことです。あくまで一般的な政治活動家としての肩書に留めます。
・政治信条や活動テーマを前面に出す
「●●市政に新しい風を! ○○(氏名)」
「子供たちの未来のため、市政に挑戦 ○○(氏名)」
「元市役所職員、行政改革を目指す ○○(氏名)」
「●●(地域名)を愛する、政治活動家 ○○(氏名)」
・職業や経歴を名乗る
「前●●市議会議員 ○○(氏名)」
「行政書士 ○○(氏名)」
「NPO法人●● 理事長 ○○(氏名)」
・後援会や政治団体の名称を使う
「○○(氏名)後援会 事務所長」
「元気な●●市をつくる会 代表 ○○(氏名)」
※この場合、政治団体として届出を済ませておくことが望ましいです。
これらの表現は、あくまでその人の「現在の身分」や「政治的な目標」を示しているに過ぎず、直ちに特定の選挙での投票依頼には結びつかないと解釈されやすいです。
一見安全に見えても、文脈や他の情報と組み合わせることで、事前運動と見なされるリスクがある表現です。
「●●(氏名)と共に市政を考える会」
→ 氏名が前面に出るため、実質的な個人後援会と見なされます。活動実態が伴っていれば問題ありませんが、名称だけが先行すると選挙目当てと取られる可能性があります。
「来春の統一地方選挙に向けて活動中」
→ 「来春の統一地方選挙」が「特定の選挙」を強く示唆するため、非常に危険です。具体的な選挙の時期に言及するのは避けましょう。
ウェブサイトのドメイン名が「〇〇https://www.google.com/search?q=-shigi.com」(〇〇https://www.google.com/search?q=-%E5%B8%82%E8%AD%B0.com)
→ ドメイン名も公表物の一部です。これも特定の選挙への立候補の意思表示と取られるリスクがあります。
【最重要ルール】
表現に少しでも迷ったら、あるいは独自のキャッチコピーを考えた場合は、必ず事前に管轄の選挙管理委員会(選管)に相談してください。 選管は、法律違反を取り締まるだけでなく、公正な選挙が行われるようアドバイスをくれる機関でもあります。作成したビラの原稿などを持ち込んで、「この表現は事前運動にあたりませんか?」と確認するのが最も確実で安全な方法です。
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ここでは、実際によくある質問をQ&A形式で解説します。
Q1. 名刺に「立候補予定者」と書くのもダメですか?
A1. はい、NGとなります。
名刺は不特定多数に配られる可能性のある文書と見なされます。たとえ一対一で渡す場面でも、公職選挙法の規制対象となります。「立候補予定者」という表記は、名刺であっても事前運動にあたる可能性が極めて高いです。安全な肩書を記載してください。
Q2. FacebookやX(旧Twitter)のプロフィール欄に書くのはどうですか?
A2. これもNGです。
ウェブサイトやSNSも「文書図画」と見なされ、公職選挙法の規制対象です。プロフィール欄に「●●市議選 立候補予定」などと記載すれば、常時、事前運動を行っている状態となり、非常に危険です。SNSでは、日々の政治活動の報告や政策の発信に徹しましょう。
Q3. 「政治家」や「政治家を志す者」という表現なら大丈夫ですか?
A3. 一般的には大丈夫です。
「政治家」は職業や身分を示す一般的な名称であり、「●●市議会議員選挙」という特定の選挙には直接結びつきません。「政治家を志す者」も同様に、政治への一般的な意欲表明と解釈されるため、安全な表現の範囲内と言えます。
Q4. 私の支持者が、自身のブログで私を「次期市議候補予定の○○さん」と紹介してしまいました。私も罰せられますか?
A4. あなたが関知していなければ、直ちに罰せられる可能性は低いですが、放置は危険です。
第三者が自主的に行う応援は「選挙運動」ではなく「政治活動」と見なされる余地もありますが、あなたとその支持者が連携している(例えば、あなたが紹介文を依頼した)と見なされれば、事前運動の共犯となる可能性があります。
このような記述を見つけた場合は、法律の趣旨を説明し、速やかに「市政に挑戦する○○さん」のような安全な表現に修正してもらうよう、真摯にお願いすべきです。そうした対応をとること自体が、遵法意識の高さを示すことにも繋がります。
Q5. 選挙の時期が近づいてきたら(例:告示日の1ヶ月前)、少し表現を強めても良いですか?
A5. いいえ、時期は関係ありません。
事前運動の禁止は、選挙期間(告示日)の前日まですべての期間に適用されます。告示日に近くなったからといって、ルールが緩むことは一切ありません。時期に関わらず、定められたルールを厳格に守る必要があります。
選挙は、ルールを守って初めてフェアな競争と言えます。細かな表現の一つひとつに気を配ることは、面倒に感じるかもしれません。しかし、その姿勢こそが、法律を守り、公正な社会を目指すというあなたの政治家としての資質を示す最初の試金石です。
「これくらいなら大丈夫だろう」という安易な判断が、あなたの政治生命に致命的な傷を残すこともあり得ます。繰り返しになりますが、最も確実なのは、選挙管理委員会への事前相談です。
この記事が、あなたのクリーンで力強い政治活動の一助となれば幸いです。法律を正しく理解し、有権者の信頼を得られる、正々堂々とした活動を展開してください。
もちろん、当選・再選へGOでも上記のようなご相談は随時承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。担当者がしっかりとサポートさせて頂きます。