政治活動においてポスターは、有権者に候補者や政党の主張を伝え認知度を高めるための重要なツールです。選挙時には多くの候補者が公営掲示板にポスターを貼り出すため、デザインやメッセージ性が注目を集めるポイントになります。選挙期間外でも、政治家は支持者への情報発信や次回選挙への準備としてポスター掲示を活用します。
本記事では、このような政治活動用ポスターの掲示ルールについて、公職選挙法の基本から最新の法改正動向まで網羅的に解説します。
2024年以降の法改正による新ルールにも触れ、違反リスクを避けるための実務ポイントを整理します。政治家本人や選挙スタッフ、一般の関心層に向けて全国共通のルールと主要自治体の手続き例を紹介し、合法かつ効果的にポスターを活用する一助とします。
公職選挙法では、選挙の公正を確保するために文書図画(ポスターや立札、ビラ等)の頒布・掲示方法が厳格に規定されています。特に候補者の氏名や後援団体名が表示された政治活動用ポスターについては、無制限に貼って良いわけではなく、法律上原則禁止とされています。公職選挙法第143条第16項では「次の政治活動用の文書図画は掲示することができません」として以下を挙げています。
※公職の候補者等=現在公職にある者、立候補予定者、立候補の意思を表明している者。
つまり候補者個人やその後援会名入りのポスター類は基本的に掲示禁止と覚えておきましょう。これは選挙の有無を問わず通年で適用される原則です。一方、公職選挙法は例外として一定の条件下でのみ政治活動用ポスターの掲示を認めています(詳細は後述の各項目で説明します)。まずは法律の基本概念として、選挙運動と政治活動の区別を押さえておきましょう。
選挙運動とは:「特定の選挙において特定の候補者を当選させるために選挙人に働きかける行為」です。選挙運動は公示日(告示日)から投票日前日までの限られた期間のみ許されています。それ以外の期間に行えば事前運動(事前選挙運動)として違法です。
政治活動とは:広く政治的主張の宣伝や支持・反対の活動全般を指しますが、公職選挙法上は選挙運動に当たる行為を除いたものを指します。選挙の無い平常時に行う政治的PRや後援会活動はこちらに該当し、基本的には自由ですが、一部に上記のような文書図画の掲示規制がある点に注意が必要です。
以上を踏まえ、公職選挙法が定めるポスター掲示の例外ルール(許されるケース)を順に見ていきましょう。法律の条文や自治体の解説資料から具体的に確認し、合法的にポスターを掲示するための要件を整理します。
選挙運動用ポスターは、各候補者が指定された掲示板の自分の番号枠に1枚ずつ貼り出す(写真は番号のみでポスター未掲示の状態)形式で掲示される。
まず「選挙ポスター」と「政治活動ポスター」の違いを明確にしておきます。一般に選挙ポスターとは、公示・告示後の選挙期間中に各候補者が掲示できる公式のポスターを指します。一方、政治活動ポスターは選挙期間外の平常時に政治活動の一環として使用されるポスター類を指します。両者は目的・掲示場所・期間において次のような違いがあります。
以上のように、選挙ポスターは公式な選挙運動媒体、政治活動ポスターは非選挙期の政治PR媒体として位置づけられ、それぞれ法的な扱いが大きく異なります。この違いを理解したうえで、以下では政治活動ポスターにフォーカスし、その掲示可能な範囲や手続きについて詳しく見ていきます(選挙ポスターについてはサイズやデザインの注意点を後述)。
なお政治活動用の立札・看板・のぼり旗等についてもポスターと類似の規制がありますが、基本的に候補者名等を表示したものは屋外で自由に掲示・使用できない点は同様です。
政治活動ポスターを提示できる場所や条件、期間、掲示方法のルールを解説します。
政治活動用ポスターを掲示する場所は、原則としてその候補者や後援団体が使用する事務所の所在地敷地内に限られます。公職選挙法では、候補者等の政治活動用事務所ごとに一定枚数のポスターや看板類の掲示を例外的に認めています(後述の証票交付手続きが必要)。したがって、自宅や後援会事務所などを事前に「政治活動用事務所」として届け出ていない場所、例えば単なる支持者宅の塀や駐車場、田畑、道路脇の空き地などに候補者名入りポスターを貼ることは許されません。
また、公有地や電柱・街路樹・公園設備といった公共の工作物への掲示はたとえ一時的でも許可なく行えば違法です。掲示する際は必ずその場所の所有者または管理者から事前に了承を得る必要があります。例えば支持者の家屋の壁面にポスターを貼らせてもらう場合でも、きちんと了承を取った上で貼りましょう。
前述の通り、公職選挙法第143条第16項ただし書きにより選挙前一定期間内の政治活動ポスター掲示は禁止されています。具体的には任期満了による選挙では任期満了日の6か月前の翌日から投票日まで、解散による衆議院選挙では解散翌日から投票日までが掲示禁止期間です。
この期間に入ったら、該当選挙区内では候補者個人名や後援会名を表示したポスター類を掲示することはできません。うっかり掲示を続けていると事前運動(公選法129条違反)と見なされるリスクがあります。実際、選挙区によっては警察が選挙前にパトロールを行い、違反ポスターの警告撤去を指導するケースもあります。
したがって選挙日程を見据え、選挙半年前までに対象ポスターを撤去または隠す計画を立てておくことが大切です。一方、禁止期間外であれば政治活動ポスターを掲示すること自体は可能ですが、冒頭で述べた内容規制(候補者名や類推事項の表示禁止)に抵触しないものに限られます。例えば単に政策スローガンや政党名のみを記載したポスターであれば、選挙運動に当たらない限り平常時に掲示しても問題ありません(駅前で政党名だけを書いたのぼり旗を立てる等はこの範囲なら合法と解釈されています)。
しかし少しでも個人の売名や票の取りまとめに繋がるような要素があれば選挙運動と判断されかねません。要は期間外であっても「投票を依頼する目的」に出た行為は全て選挙運動となり違法という点を常に念頭に置きましょう。
政治活動ポスターの掲示方法についても、いくつか守るべきルールがあります。まず、ポスターには必ず表面に「掲示責任者」と「印刷者」の氏名および住所を表示しなければなりません。これは選挙運動用ポスターと同様で、公選法で定められた様式です(多くはポスター下部に小さく明記)。
次に、ポスターをベニヤ板やプラスチック板で裏打ち(貼り付け補強)することは禁止されています。紙のポスターを板に貼って看板のように設置すると、第143条で規制する「立札看板類」と見なされてしまうためです。実質的に看板に該当するものは後述の証票を貼付した上で事務所敷地内に限り掲示できますが、証票なしで板貼りポスターを道路沿い等に立てかければ違反となります。
また、ポスターを他人の工作物(建物の壁や塀など)に掲示する場合は所有者の承諾を得ることが必要なのは言うまでもありません。無断で民家の塀に貼れば法律以前にトラブルになりますので注意してください。以上の基本ルールを守れば、政治活動ポスターを一定範囲で活用することは可能です。次章では、実際に掲示を行うために必要な行政手続き(許可申請や証票の取得)について説明します。
政治活動ポスターを提示するための許可申請の手順や必要書類を解説します。
公職選挙法の例外規定により、候補者や後援団体が政治活動用事務所に掲示する立札・看板等については所定の「証票」(ステッカー)の貼付を条件に掲示が認められます。この証票は各選挙管理委員会が交付するもので、掲示物1枚ごとに見やすい位置へ貼り付けなければなりません。
証票を入手するには、まず候補者本人または後援会が証票交付申請書を選挙管理委員会に提出する必要があります。申請先は掲示しようとする事務所の所在地や対象選挙の種類によって異なり、例えば国政選挙の候補者であれば中央選挙管理会、都道府県知事・議員なら都道府県選管、市区町村長・議員ならその市区町村選管という具合に分かれています。
申請書様式は各選管の窓口や公式サイトで入手でき、記入項目は事務所の住所、連絡先、掲示物の種類と枚数、掲示場所の詳細などです。多くの自治体では候補者用と後援団体用で書式が分かれており、例えば岡山市選管では候補者等用と後援団体用それぞれの証票交付申請書が用意されています。
申請の結果、交付が決定すると証票シールが発行されますので、掲示予定の看板等1枚ごとに貼付します。証票には有効期限が明記されており、その候補者の任期満了時など適切な時期まで有効となります。万一、掲示後に事務所所在地を変更したり掲示物を撤去・追加する場合は、選管への届出や証票の再交付申請が必要です。
各主要都市でも、この証票交付の手順は基本的に全国共通の公選法ルールに従っています。例えば東京都では各区市町村の選管が管轄となり、証票申請後に交付されるステッカーを看板類に貼ることで掲示が認められます(東京都選管HPにも申請窓口案内があります)。
大阪市でも市選管が証票交付を所管しており、申請書の様式や提出先を案内しています。福岡市でも同様に、市選管に申請して証票を受け取る流れです。要するに「候補者名入りの看板類を事務所に掲出するには選管発行の証票が必須」という点は全国一律ですので、該当する場合は忘れず手続きを行いましょう。
事務所掲示以外の政治活動ポスターを貼る場合、何らかの許可申請は必要でしょうか。公職選挙法上、前述のとおり「内容さえ規制に抵触しなければ勝手に貼っても良い」という建前ですが、実際には屋外広告物条例など他の法令との関係を考える必要があります。多くの自治体では、屋外に掲示する広告物(ポスターや看板)は行政の許可制になっています。政治活動ポスターについては政治的表現の自由との兼ね合いから条例で一定の特例扱いをしている場合もありますが、自治体によって手続きが異なります。
例えば岡山市では、政治活動用ポスターを掲示する際に都市計画課から交付された証票(屋外広告物許可証に相当)を貼る必要があるとされています。一方、京都市や東京都などでは特にポスター毎の許可証は求められていませんが、掲示する場所の管理者の了承を得ることや条例で定める表示方法の遵守が求められます。
基本的に私有地内に掲示する限りは屋外広告物の規制も緩やかですが、例えば人目につく塀に大型ポスターを複数貼るような場合は条例上のサイズ制限等に注意しましょう。どうしても判断が難しい場合は、地元自治体の担当部署(選挙管理委員会や屋外広告物担当課)に事前に相談し、必要な許可や届出がないか確認することをお勧めします。
政治活動ポスター・看板類の掲示に関連して準備すべき書類は以下の通りです。
これら書類の様式は自治体公式サイトでダウンロード提供されていることが多いです。例えば東京都北区では政治活動用文書図画の規制ページで関連手続きを案内しています。主要都市(東京・大阪・福岡等)でも基本的に上記内容に沿った手順となっていますので、管轄選管の情報を確認して漏れなく準備しましょう。
政治活動ポスターのサイズやデザイン上の注意点を解説します。
選挙運動用ポスター(公営掲示板に貼るポスター)のサイズ規格を紹介します。公職選挙法施行令で細かく定められており、地方選挙では縦42cm×横30cm以内、国政選挙(衆議院・参議院)では縦42cm×横40cm以内とされています。掲示板の枠から1ミリでもはみ出すと認められないため、ラミネート加工等をする際も仕上がり寸法に注意が必要です。
また、選挙ポスターにも政治活動ポスター同様に掲示責任者・印刷者の表示義務があります。それ以外のデザイン要素(色使いやレイアウトなど)に制限は基本的にありませんが、2025年からは新たに「品位保持」の規定が適用されます。
例えば他の候補者を誹謗する内容や過度に猥雑な図柄は法律上NGとなり、実際に他人の名誉を毀損するポスターは禁止です。公職選挙法改正により「候補者の氏名を明記すること」も義務化されました。これらは近年問題化した悪質なポスター対策で、違反すれば最高100万円以下の罰金が科されることになります。
一方、政治活動用ポスターについては法律上明確な寸法制限はありません。紙・布・ビニール等素材も問いません。とはいえ極端に大型のポスター(例:壁一面を覆うような布製幕など)や、同じポスターを何枚も連続して貼り出す行為は、内容次第で選挙運動と見做され違法と判断される恐れがあります。
実際、条例で「一枚のポスターとして認められる範囲」を定めている自治体もあります。常識的なポスターサイズ(数十cm程度)であれば問題ありませんが、看板並みに大きいものは看板類として扱われる可能性がある点に留意してください。なお、政治活動用ポスターでも印刷物である以上、こちらも責任者・印刷者の表示が必須です。印刷時に入れ忘れると掲示できなくなるため、業者に発注する際は注意しましょう。
政治活動用事務所に掲示する立札・看板類については、公選法施行令で高さ150cm×幅40cm以内とサイズ上限が決められています(脚付きの場合は脚も含めた長さ)。さらに一つの事務所に掲示できるのは2枚までで、両面表示の立て看板は2枚と数えます。
また、証票を貼った看板のみ有効です。看板類は基本的に縦長の細長い板を想定しています。三角柱や円柱状など立体的なものは「2枚を貼り合わせた看板」と見做され使用不可とされています。最近は軽量な樹脂パネル等もありますが、構造上はこの規格内に収めましょう。
照明については、中に電球を入れた「行灯(あんどん)」形式のものは不可と明記されています。夜間にライトアップする場合は外部から照らすなど工夫が必要です。
政治活動ポスター・看板のデザイン面で特に注意すべきは記載内容が選挙運動に当たらないことです。具体的には以下の点を避けましょう。
最後にデザインの観点ではありませんが、掲示箇所ごとに許可を得ているかの確認も徹底しましょう。建物オーナーの了解なしに勝手に貼って後日トラブル…という事例は少なくありません。特に賃貸ビルを後援会事務所にしている場合、ビルの管理規約で外壁掲示を禁じていることもあります。掲示前に所有者・管理者と十分打ち合わせを行い、必要なら書面で許可をもらっておくと安心です。
公職選挙法違反は「犯罪」です。そのためポスター掲示の規制違反についても、悪質な場合は警告や逮捕等の厳正な措置が取られます。実際、毎回の選挙で多くの警告事例があり、2021年の衆院選では投票日前々日までに全国で1,376件もの公選法違反警告が出されています。この中にはポスター違反(事前運動)も含まれており、選挙前に候補者のポスターを配布・掲示した60代男性が書類送検されたケースなども報告されています。一般有権者が選挙ポスターをいたずら書きして逮捕される事例もあるほどで、候補者側だけでなく周囲の人々も公選法順守への意識が求められます。
職選挙法違反の法定刑はケースによりますが、「2年以下の禁錮又は30万円以下の罰金」といった刑罰が規定されているものが多いです(事前運動や法定外文書頒布など)。さらに候補者本人やその陣営が関与する重大な違反の場合、当選無効や一定期間の公民権停止(立候補権・選挙権の剥奪)といった行政処分も科されます。
例えば選挙運動の事前活動で有罪が確定すると5年間は立候補できなくなるといった厳しいペナルティがあります。ポスター違反も程度によっては刑事罰の対象となり得ますので、「バレなければいい」ではなく絶対に法を守る姿勢が求められます。
過去の主な違反事例を幾つか挙げると
こうした事例から学べるのは、「内容がグレーなら掲示しない」「掲示場所の許可を怠らない」「告示日を迎えたら即撤去」といった基本を守ることの重要性です。万一違反に問われて罰金刑以上を受ければ経歴にも大きな傷が付き、政治生命を左右しかねません。
過去には選挙運動費用の公費負担を悪用して多数の同一ポスターを掲示板に貼り、問題になったケース(2024年都知事選)などもあり、公選法は年々厳格化する傾向にあります。「知らなかった」では済まされないのが選挙の法律ですので、最新情報をアップデートしつつ常にクリーンな選挙・政治活動を心掛けましょう。
最後に、政治活動ポスターの掲示に関する重要ポイントをまとめたチェックリストを示します。実際にポスターを作成・掲示する際には、以下の項目を一つ一つ確認するようにしてください。
✅ 候補者名や類推事項、後援会名をポスターに入れていないか(入れる場合は掲示場所・期間の制限を遵守)。内容に選挙運動と見なされる表現が含まれていないかを確認
✅ 掲示責任者・印刷者の氏名住所をポスター表面に明記したか(政治活動ポスター・選挙ポスターとも必須)。抜け漏れがないようデザイン段階でチェック
✅ 掲示場所の所有者等から事前許可を得たか。ビル管理会社や家主との契約上問題がないか確認。必要に応じて書面で許諾をもらいトラブル防止
✅ 選挙の6か月前を過ぎていないか(過ぎたら速やかに撤去)。公示日・告示日が決まっている場合はカレンダーに印を付け、忘れず実行する
✅ 事務所掲示の看板類には証票を貼付したか。証票未貼付の看板や裏打ちしたポスターを掲示していないか確認し、不備があれば是正する
✅ 屋外広告物条例の手続き確認。掲示物が条例の適用対象なら所管部署に相談し、必要な許可・届出を済ませているかチェックする
✅ (選挙期間中)公営掲示板以外に選挙ポスターを貼っていないか。陣営内で周知徹底し、誤って街頭に貼ることの無いよう注意。既存の政治活動ポスターも告示日以降は残さない
✅ 最新の公選法改正情報を把握しているか。2024~2025年改正のポスター規制(品位保持や罰則強化)にも対応した内容になっているか確認。古い常識に頼らず、選挙管理委員会の通知や研修会資料などで知識をアップデート
以上のチェックポイントを踏まえて準備・運用すれば、政治活動ポスターを有効かつ安全に活用できるはずです。ポスターは地道な政治活動を象徴する存在でもあります。ルールを順守しつつ創意工夫したポスター掲示で、有権者へのメッセージ発信と支持拡大にぜひ役立ててください。