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国会議員の「JR無料パス」は本当か?飛行機・タクシー「交通費の特権」の今と昔、そして東京選出議員がもらえない理由

作成者: Admin|2025/11/20

 

はじめに

選挙で選ばれた国会議員。彼らには、駅の改札を顔パスのような身分証で通り抜け、新幹線や飛行機に「無料」で乗っているというイメージがないでしょうか。

・税金で優雅な生活だ
・なぜ都内の議員はもらえない?
・そもそも、そのルールはどうなっているんだ?

この制度は、多くの国民にとって「特権」の象徴と見なされがちです。しかし、その実態は「タダで乗り放題」という単純な話ではありません。そこには、日本の議会制民主主義を支えるための「建前(理由)」と、時代遅れと批判される「実態(問題点)」が複雑に絡み合っています。

この記事では、国会議員の交通費にまつわる「からくり」を、今と昔の比較、そして制度が抱える課題まで、徹底的に解説します。


1. 大前提:「なぜ」交通費が支給されるのか?

この制度の是非を問う前に、まず「なぜ」国会議員に交通費が公費で提供されるのか、その根本的な「存在理由」を理解する必要があります。これは「議員への福利厚生」ではありません。建前上は、国会議員の「職務」を遂行するために不可欠な「経費」として位置づけられています。

職務とは「2つの拠点」を持つこと

日本の国会議員は、選挙区(地元)から選ばれ、東京(永田町)の国会で働きます。
つまり、彼らの職務は以下の2つに大別されます。

1.国会活動(東京)
本会議や委員会に出席し、法律案を審議し、国の政策を決定する。

2.地元活動(選挙区)
地元の有権者の声を聞き、陳情を受け、国政の状況を報告する。「国民の代表」として、地元と国政をつなぐ。

この2つの拠点を頻繁に行き来することは、議員の「義務」です。もし、この往復費用がすべて「自腹」だとしたら、どうなるでしょうか。北海道や沖縄、九州の議員は、莫大な交通費負担に耐えられません。結果として「東京近郊に住むお金持ち」しか議員になれなくなり、民主主義が歪んでしまいます。

「資力(お金)の有無に関わらず、全国どこからでも代表者として活動できる」
この原則を担保するために「国会法」や「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」に基づき、公費で交通費が支給されているのです。

 

2. 【現在】具体的に「何」が支給されるのか?

では、現在のルールで、具体的に何が「無料」になるのでしょうか。「乗り放題」なのでしょうか。

電車:JR特殊乗車券(通称:JR無料パス)

これが最も有名な「JR無料パス」の正体です。
正しくは「JR特殊乗車券」および「JR特殊グリーン券」と呼ばれます。

* 対象
衆議院議員・参議院議員(と、その秘書の一部)

* 内容
JR全線の運賃が無料になる「乗車券」と、新幹線や特急の「グリーン車」に乗れる「グリーン券」が支給されます。

【重要】これは「乗り放題パス」ではない

かつて(後述します)は本当に「乗り放題」でしたが、現在は違います。
この乗車券の目的は、あくまで「東京の国会」と「地元の選挙区」の往復(=公務遂行)です。

そのため、建前上は「公務(国会活動・地元活動)のための移動」にのみ使用が認められています。選挙区が大阪の議員が、このパスで北海道にスキー旅行に行くことは、ルール上「禁止」されています。

飛行機:国会議員国内航空券クーポン

新幹線が通っていない地域(沖縄や離島)や、飛行機移動が現実的な遠方(北海道・九州など)の議員には、電車(JRパス)の代わりに飛行機のクーポンが支給されます。

* 対象
電車の利用が著しく不便・非効率な選挙区の議員

* 内容
 「東京(羽田)と地元の空港」を往復するための航空券クーポン。

* 制限
回数制限があります。無制限ではありません。

例えば「月に3往復分(6枚)」のように、必要な往復回数が計算されて支給されます。JRパスと違って「乗り放題」ではない点が特徴です。

タクシー:公用自動車とタクシー券

これは「地元との往復」とは別の経費です。

* 公用自動車(黒塗り)
議長・副議長や、各委員会の委員長など、特定の「役職者」には、運転手付きの公用車が割り当てられます。

* タクシー券
役職者以外の一般議員は、公用車を使えません。その代わり、「東京23区内で、公務のために移動する」場合に限って使用できるタクシーチケットが、月額で一定額(数万円程度)支給されます。(例:国会から、陳情のために霞が関の省庁へ行く。党本部へ会議に行く、など)

【まとめ】現在のルール

「無料パス」は存在するが、その目的は「東京と地元の往復(公務)」に限定されている。飛行機は回数制限あり。タクシーは東京での公務用に限定。

 

3. 【疑問】都内が選挙区の議員にはないのか?

ここが重要なポイントです。
では、選挙区が「東京都」の議員はどうなるのでしょうか。

* 結論
東京都(およびその近郊)が選挙区の議員には、この「JR特殊乗車券」も「航空券クーポン」も支給されません。

なぜか、それは、第1章で説明した「存在理由」に戻ります。
この制度の目的は「遠方の議員が、東京の国会と地元の往復で困らないようにするため」です。

都内が選挙区の議員は、国会(永田町)が「地元」の一部であり、自宅から国会へ「通勤」できます。「地元との二重生活」や「高額な往復費用」が発生しないため、この制度の支給対象外となるのです。

この事実は、この制度が(少なくとも建前上は)「特権」ではなく「職務上の必要経費」として設計されていることを、強く裏付けています。

4. 【歴史】今と昔:「特権」はこう変わった

「おかしい。昔は議員がタダで旅行していると問題になったはずだ」
その記憶は、まったくもって正しいものです。現在の「制限された制度」は、国民の厳しい批判を受けて「改革」された後の姿なのです。

【昔】昭和〜平成初期

本当の「特権フリーパス」
かつての「JR特殊乗車券」は、現在のものとは似て非なる、まさに「黄金の特権」でした。

* 使用制限なし
「公務のため」という縛りが非常に緩く、事実上、JR全線が乗り放題でした。

* 家族旅行にも
議員本人のみならず、その家族までもが「家族パス」の恩恵を受けられる時代さえありました。

* 私的旅行の横行
選挙区とは全く関係のない場所への「私的な旅行」に公然と使われ、国民の猛烈な批判を浴びました。

当時の国鉄(JR)側も、政治家との関係上、これを黙認せざるを得ない空気があったのです。

【今】改革のきっかけ

風向きが変わったのは、1990年代後半から2000年代にかけてです。バブル崩壊後の厳しい経済状況、政治不信の高まり、そして「国鉄改革」を経てJRが民間企業(の建前)となったこと。こうした中で「国会議員の特権」への監視の目が厳しくなり、「議員特権の廃止・見直し」が政治争点となりました。

その結果、以下のような改革が行われました。

1.家族パスの廃止
家族が使えるような制度は撤廃されました。

2.使用目的の厳格化(建前)
 「公務(東京と選挙区の往復)」が目的であると、明確に位置づけられました。

3.「乗り放題」から「必要分の支給」へ
JRパスは「全国フリーパス」の性質を失い「2拠点往復用」の乗車券へと実態が変更されました。

つまり、私たちが今見ているのは、かつての「やりたい放題」の特権が、批判を受けて大きく縮小・修正された後の「現在の姿」なのです。

 

5. 【問題点】それでも残る「3つの課題」

「改革されたなら、もう問題ないのか?」
残念ながらそう単純ではありません。現在の制度にも多くの問題点と課題が残されています。

課題:
ザル法?「公務」の定義があいまいすぎる

現在の制度の最大の欠陥です。
JRパスは「公務」にしか使えないとされましたが、では、「公務」とは何でしょうか?

* 「地元の支持者の結婚式」に出席するのは?
* 「地元の祭り」に参加して挨拶するのは?
* 「支持者(有力者)の葬式」に参列するのは?

これらは、厳密な「政策活動」ではありません。しかし、議員にとっては票に直結する重要な「政治活動(地元活動)」です。現在のルールでは、これらもすべて「公務」としてJRパスの利用が黙認されています。

結局のところ「東京と選挙区の往復であれば、その目的が何であれ『公務』とみなす」という、極めて緩い運用になっているのです。「私的旅行」はダメでも「政治活動」という名の私的利用に近いものが、野放しになっているのではないかという批判は絶えません。

課題:
誰がチェックするのか?(透明性の欠如)

議員がJRパスを「いつ」「どの区間で」「何のために」使ったのか、その利用実態を、第三者が厳しくチェックする仕組みがありません。すべては議員個人の「良識」と「モラル」に委ねられており、この「性善説」に基づいた制度が、国民の信頼を得られていないのは明らかです。せめて「利用履歴(どの区間を乗ったか)」だけでも、国民に情報開示すべきだという意見は根強くあります。


課題:
時代遅れ? Zoom時代の「移動」の価値

コロナ禍を経て、私たちの働き方は一変しました。オンライン会議(ZoomやTeams)が普及し「移動せずとも仕事はできる」と多くの人が知りました。国会議員も例外ではありません。「地元との意見交換」は、オンラインでも相当部分が可能です。

そんな時代に、旧態依然として「月に何度も、グリーン車で、物理的に往復すること」を前提とした手厚い公費負担は、本当に必要なのでしょうか。

もちろん「対面でなければ聞けない声」はあります。しかし、その「必要性」と「公費負担のバランス」は、テクノロジーの進歩に合わせて、もう一度ゼロベースで見直されるべき時期に来ています。

6. まとめ:「特権」から「透明性のある経費」へ

国会議員の交通費制度は、かつての「乗り放題特権」から、現在は「制限付きの職務経費」へと姿を変えました。そして、都内選出の議員に支給されないというルールは、この制度が(建前上は)合理的な理由に基づいていることを示しています。

しかし、その運用は依然として「公務」という名のブラックボックスに包まれています。

私たちが目指すべきは「議員の交通費をゼロにしろ」という単純な批判ではありません。彼らが「国民の代表」として全国から集まり、地元と国政を繋ぐという重要な「職務」を、萎縮せずに行える環境は必要です。

ただし、そのために使われる「税金」は、1円単位まで透明であるべきです。

* 利用履歴は、すべて国民に公開すること。
* 「公務」と「政治活動」と「私用」の線引きを、もっと明確にすること。
* オンライン化を踏まえ、本当に必要な「移動」の量を見直すこと。

「特権」と批判される“聖域”をなくし、国民が納得できる「透明性のある必要経費」へと完全に移行させること。それこそが、国会議員自らに課せられた、現代の「政治改革」の第一歩と言えるでしょう。

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