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選挙の季節がやってくると、私たちのスマートフォンにはX(旧Twitter)、Instagram、Facebook、LINEといったSNSを通じて、候補者の情報がひっきりなしに流れてきます。2013年に「ネット選挙運動」が解禁されて以来、SNSは候補者にとっても、私たち有権者にとっても、政治的な意思を表明する「当たり前」の広場となりまし私たちは皆、都道府県や市区町村といった「地方公共団体」に属して生活しています。日々の暮らしの中で利用する道路、公園、図書館、ゴミ収集、子育て支援、介護サービス。これら私たちにとって最も身近な行政サービスを担っているのが「地方自治」です。
テレビのニュースや新聞で、「〇〇市長、新アリーナ建設計画の予算案を議会に提出」あるいは「〇〇県知事と県議会が、教育政策を巡り対立」といった報道を目にすることがあります。なんとなく、「首長(しゅちょう)」と呼ばれる知事や市長がリーダーで、「議会」がそれに賛成したり反対したりする場所、というイメージはお持ちかもしれません。
しかし、
・「首長」と「議会」は、具体的にどちらが偉いのか?
・国の「総理大臣」と「国会」の関係とは何が違うのか?
・なぜ、彼らは時に激しく対立するのか?
こうした地方自治の基本的な「仕組み」について、正確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。日本の地方自治は、この「首長」と「議会」という二つの機関が、車の両輪のように機能することで成り立っています。この仕組みを理解することは、私たちが住む街の未来を考え、選挙で適切な代表者を選ぶ上で非常に重要です。
この記事では、選挙ブログを運営する私たちだからこそお伝えしたい、地方自治の根幹である「首長」と「議会」それぞれの役割、そして両者の「緊張関係」について解説します。
まず、「首長(しゅちょう、または「くびちょう」とも読む)」とは何か、その定義と立場から見ていきましょう。
首長とは、地方公共団体の「長」であり、その組織の行政を総合的に担当するトップ(執行機関)のことを指します。私たちが「首長」と呼ぶ役職は、具体的には以下の通りです。
都道府県:知事 (例:東京都知事、北海道知事、大阪府知事)
市町村:市長、町長、村長 (例:横浜市長、〇〇町長、〇〇村長)
東京都の特別区:区長 (例:世田谷区長、新宿区長)
彼らは、その地域の「顔」であると同時に、数千人から数万人(東京都のような巨大組織では十数万人)の職員を束ね、地域の行政サービス全般に責任を持つ、企業の「CEO(最高経営責任者)」のような存在です。
首長の最も重要な特徴は、「その地域に住む住民による直接選挙によって選ばれる」ことです。これは、国の政治体制(議院内閣制)との決定的な違いです。私たちは、「内閣総理大臣」を直接選挙で選びません。私たちが選ぶのは「国会議員」であり、国会議員たちが国会で内閣総理大臣を指名します(間接民主制)。しかし、地方自治では、住民が「知事(市長)」と「議員」をそれぞれ別の選挙で、直接選びます。
知事や市長は、議会から選ばれるのではなく、住民から直接「行政のトップを任せる」という信任を得ているのです。この点が、首長の権限と責任の源泉となっています。首長の任期は、原則として4年です。
地方自治法上、首長は「独任制(どくにんせい)の執行機関」と定められています。難しい言葉ですが、これは「行政の意思決定と執行の責任を、最終的に“首長ただ一人”が負う」という意味です。
国のように「内閣総理大臣」と「各省の大臣」が合議(話し合い)で物事を決める「内閣制」とは異なります。もちろん、首長の下には副知事・副市長や各部局の幹部職員がいますが、彼らはあくまで首長の補佐役です。ある政策を実行するかどうかの最終的な決断と責任は、すべて首長一人に帰属します。この強い権限と責任を持つ「社長」のような立場が、首長の特徴です。
では、地域のCEOである首長は、具体的にどのような仕事をし、どのような権限(力)を持っているのでしょうか。その権限は非常に強力で、多岐にわたります。
首長の仕事の中で、最も重要かつ強力な権限が「予算の編成権」です。「予算」とは、その地域が1年間(4月1日~翌年3月31日)に、住民から集めた税金などを「何に」「どれだけ」使うかという計画書です。
・新しい保育園を建設する
・高齢者のためのバス路線を維持する
・観光客を呼び込むためのイベントを開催する
こうした具体的な事業の計画と、それに必要なお金の配分を考え、詳細な「予算案」としてまとめる作業(=予算編成)は、首長にしかできない専権事項です。議会(議員)は、予算案を作ることはできません。
首長は、自らの選挙公約(マニフェスト)で掲げた「この街をこうしたい」というビジョンを、この予算案という形に落とし込みます。どの政策を優先し、どの事業を削減するか。この予算編成権こそが、首長が地域の未来像を描くための最大の武器となります。
「条例」とは、その地域独自のルールのことで、法律の範囲内で制定されます。
・子どもの医療費を18歳まで無料にする
・美しい景観を守るために、建物の高さを制限する
・路上喫煙を禁止する区域を定める
こうした地域のルール(条例)の「案」を作成し、議会に提案(提出)するのも首長の重要な仕事です。もちろん、議会で可決されなければ条例にはなりませんが、地域の課題解決のための具体的なルール案を作る発議権を持っています。
議会で予算や条例が可決されたら、それを実行(執行)するのが首長の役割です。何万人もの公務員(職員)を指揮し、組織を動かして、予算や条例に基づいた行政サービスを住民に届けます。
・道路や橋の建設/補修
・ゴミの収集と処理
・公立学校の運営
・新型コロナウイルスのワクチン接種体制の構築
・生活保護や児童手当の給付
これらすべての「実行」の最終責任者が首長です。また、こうした行政を行うために必要な職員の「任命権(人事権)」も首長が握っています。
首長は、議会の決定に対して「No」を突きつける強力な権限を持っています。議会が可決した条例案や予算案について、首長が「その内容は問題だ」「実行できない」と判断した場合、理由を付けて議会に差し戻し、審議のやり直しを求めることができます。
これを「拒否権(きょひけん)」または「再議(さいぎ)権」と呼びます。もし再議に付された議案を、議会が「それでも実行すべきだ」として、出席議員の3分の2以上の賛成で再び可決(再可決)した場合、首長はそれに従わなければなりません。しかし、議会で3分の2以上の賛成を得るハードルは非常に高いため、事実上、この拒否権は議会の行き過ぎをチェックする強力なブレーキとして機能します。
通常、予算や条例は議会の議決が必要ですが、例外的に、首長の判断だけで決定・執行できる権限が「専決処分(せんけつしょぶん)」です。
これは、
1.大規模な災害が発生し、緊急の支援が必要な場合など、議会を招集する時間的余裕がないとき
2.議会が決定すべき事項のうち、法律で定められた軽微なものなどに限定して認められます。
ただし、緊急時の専決処分を行った場合、次の議会でその内容を報告し、承認を得なければなりません。もし議会が承認しなければ、その処分の効力は失われます。このように、首長は「地域のCEO」として、政策の企画立案(予算・条例案)から実行(執行)、そして議会へのチェック機能まで、非常に強力な権限を持っているのです。
次に、首長と並ぶもう一つの主役、「議会」について見ていきましょう。
議会とは、住民の直接選挙で選ばれた「議員」が集まり、地域の重要な方針について議論し、最終的な意思決定(議決)を行う機関です。首長が「執行機関」と呼ばれるのに対し、議会は「議決機関」と呼ばれます。また、地域のルール(条例)を制定することから「地域の立法府」とも言えます。議会の具体的な名称は、以下の通りです。
都道府県: 都道府県議会 (例:東京都議会、大阪府議会)
市区町村: 市議会、町議会、村議会 (例:横浜市議会、〇〇町議会)
議会議員も、首長と同様に、住民による直接選挙(議員選挙)によって選ばれます。任期も首長と同じく、原則として4年です。首長選挙が「たった1人の代表」を選ぶのに対し、議員選挙は「定められた定数(例:40人、20人など)の代表」を選びます。
首長が「独任制(一人で決める)」であったのに対し、議会は「合議制(ごうぎせい)」の機関です。議会には、与党(首長を支持する会派)もいれば、野党(首長を批判する会派)もいます。様々な政策や価値観を持つ議員たちが集まり、議論(合議)を尽くし、最終的に「多数決」によって組織としての意思を決定します。
首長が「社長」なら、議会は「株主総会」や「取締役会」に例えられます。社長(首長)が提案する経営方針(予算案・条例案)が、本当に会社(地域)のためになるのかを厳しく審査し、承認(可決)するか、却下(否決)するかを決定する場なのです。
議会は「議決機関」として、また住民の代表として、首長(行政)に対抗しうる重要な権限を持っています。
議会の最も重要な権限は、「議決権」です。
首長から提案された重要な議案に対して、最終的な「Go / Stop」の判断を下します。
予算の議決
首長が作成した予算案を審査し、承認(可決)または不承認(否決)する。
条例の制定・改廃
首長や議員から提案された条例案を審議し、可決・否決する。
決算の認定
前年度の税金が、予算通り正しく使われたかを審査し、承認(認定)する。
重要な契約の議決
一定額以上の公共工事の契約や、公の施設(例:市民ホール)の管理者を指定する際などに議決を行う。
首長がどれだけ素晴らしい計画(予算案)を立てても、議会が「No(否決)」と言えば、その計画は実行できません。議会は、首長の政策実行における「最終関門」なのです。また、議員自らが条例案を作成し、議会に提案すること(議員提案条例)も可能です。
議会のもう一つの重要な役割は、「行政の監視(チェック)」です。首長をはじめとする行政機関が、税金を無駄遣いしていないか、法律や条例に従って公正に仕事を行っているかを厳しく監視します。
一般質問・代表質問
テレビ中継されることもある「議会」の代表的な風景です。議員が住民の代表として、首長や幹部職員に対し、地域の課題や行政の運営方針について直接質問し、答弁を求めます。
決算審査
「決算の認定」と連動し、前年度のお金の使い方が適切だったかを詳細にチェックします。
国政調査権に似た調査権(百条委員会)
行政の不正や不祥事が疑われる場合、議会は「百条委員会(地方自治法第100条に基づく調査特別委員会)」という強力な調査権を発動できます。これは、関係者に出頭や証言、記録の提出を強制できるもので、拒否すれば罰則もある非常に重い権限です。
議会が「この首長には、これ以上行政を任せておけない」と判断した場合、最終手段として「不信任決議(ふしんにんけつぎ)」を突きつけることができます。これは、議会が首長に叩きつける「クビ宣告」に等しい、最大の切り札です。
この不信任決議のハードルは非常に高く、可決するには「議員数の3分の2以上が出席し、その4分の3以上の賛成」(※通常の可決は過半数)という、極めて重い条件を満たす必要があります。(※ただし、「出席議員の過半数」で可決できる、よりハードルの低い「問責決議」や「辞職勧告決議」もありますが、これらに法的な拘束力はありません。)
ここまで、首長と議会、それぞれの役割と権限を見てきました。どちらも強力な権限を持ち、互いにチェックしあう関係にあることが分かります。この、日本の地方自治の根幹をなす仕組みを「二元代表制(にげんだいひょうせい)」と呼びます。
二元代表制とは、住民が、「行政のトップ(執行機関)」である首長と、「議決機関のメンバー」である議員を、それぞれ別の選挙で、直接選ぶ仕組みのことです。首長も、議会も、どちらも等しく「住民から直接信任を得た、正当な代表」です。どちらが上、どちらが下という関係ではありません。両者は独立・対等な立場で、住民の意思を政治に反映させる責任を負っています。
この二元代表制は、国の「議院内閣制」とは根本的に異なります。
国(議院内閣制)
国民が選ぶのは「国会議員」だけ。その国会議員(多数派)が「内閣総理大臣」を選びます。内閣は国会の信任に基づいて成立し、国会に対して責任を負います。両者の関係は一体的・融合的です。(一元的)
地方(二元代表制)
住民が「首長」と「議員」を別々に選びます。首長は議会から選ばれるのではなく、議会とは独立して住民に責任を負います。両者の関係は対立・牽制(けんせい)的です。(二元的)
なぜ、地方自治ではこの二元代表制が採用されているのでしょうか?
それは、首長(行政)の独走を防ぎ、多様な民意を反映させるためです。強力な権限を持つ首長を、同じく住民から選ばれた議会が厳しくチェックする。この「緊張と均衡(バランス)」によって、健全な行政運営が担保される、というのがこの制度の設計思想です。
この二元代表制の「緊張関係」が最も高まるのが、前述の「不信任決議」が可決された時です。
1. 議会 → 首長:「不信任決議」(可決)
(議員数の3分の2が出席し、その4分の3が賛成)
2. 首長 → 議会:「二者択一」
不信任決議を突きつけられた首長は、10日以内に、以下のどちらかを選ばなければなりません。
選択肢A: 自ら「辞職」する
(→首長選挙がやり直しとなる)
選択肢B: 議会を「解散」する
(→議員選挙がやり直しとなる)
「私を信任しないと言うのなら、私(首長)が辞めるか、それともあなたたち議会が民意を問い直すか、住民に決めてもらおう」という、最終対決です。
首長が議会を「解散」した場合、議員選挙が行われ、新しい議会が構成されます。そして、その新しい議会が再び首長の不信任決議を可決(この場合は過半数でOK)すれば、首長は自動的に失職(クビ)となります。
この「不信任決議」と「議会解散権」という、お互いがお互いの身分を失わせることができる「切り札」を握り合っていることこそが、二元代表制の緊張感の源泉なのです。
今回は、地方自治の根幹である「首長」と「議会」の役割について、徹底的に解説しました。
首長(知事、市長など)
住民の直接選挙で選ばれる「行政のトップ(CEO)」。
役割(執行機関):予算案・条例案を作成し、議会の議決のもとで行政サービスを「実行」する。
権限:予算編成権、拒否権(再議権)、専決処分権など、強力な権限を持つ。
議会(都道府県議会、市議会など)
住民の直接選挙で選ばれる「議員」で構成される。
役割(議決機関):首長の提案を審議し、予算や条例を「決定」する。行政を厳しく「監視」する。
権限:議決権、行政の調査権、首長への不信任決議権などを持つ。
両者の関係:「二元代表制」
首長も議会も、住民から直接選ばれた「独立・対等」なパートナーです。互いに協力し(協調)、互いに厳しくチェックしあう(緊張関係)ことで、行政の独走を防ぎ、健全な地方自治が運営されます。「不信任決議」と「議会解散」は、その緊張関係を担保する最終手段です。
ニュースで「首長と議会が対立」と聞くと、私たちはつい「どちらかが悪い」「早く決めてほしい」と感じてしまいがちです。しかし、その「対立」や「議論」こそが、二元代表制が正常に機能している証拠である場合も多くあります。首長の提案(アクセル)に対し、議会が慎重な議論(ブレーキ)をかけるのは、当然の役割だからです。
私たち住民は、この「行政のCEO(首長)」と「行政の監視役(議会)」という、役割の異なる二つの両輪を、自らの手で直接選ぶという、非常に重い権利と責任を持っています。次の選挙では、「首長」に誰を選ぶかだけでなく、「議会」にどのような議論を期待し、どの議員(どの政党)を選ぶのか。その両方に目を向けることが、私たちの暮らしをより良くする確実な第一歩となるはずです。