インターネットを活用した選挙運動が認められるようになったことで、候補者や政党にとってSNSやWebサイトは重要な情報発信の場となっています。とはいえ、いつから何ができるのか、どこまでが許されているのかを正確に把握している方は意外と少ないのが実情です。
本ブログでは、インターネット選挙運動が可能になるタイミングや、実際に行えること・行ってはならないことについて、公職選挙法の規定に基づいてわかりやすく解説します。ネットを活用して効果的に選挙運動を行いたいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
インターネットを活用した選挙運動は、SNSや動画配信などを通じて有権者と候補者を結びつける新しい選挙のかたちです。ここではまず、インターネット選挙運動の仕組みや成り立ちについて見ていきましょう。
インターネット選挙運動とは、選挙期間中に候補者や政党がネット上で有権者に向けて支持を呼びかける活動を指します。ホームページ、SNS、動画投稿サイトなどを通じて、政策や主張を広く発信できるのが特徴です。
従来の街頭演説やポスター掲示と比べ、時間や場所の制約を受けずに情報を届けられることから、有権者との新たな接点として注目されています。また、有権者側もネットを通じて候補者の情報を比較・検討しやすくなり、選挙の意思決定に大きな影響を与えるようになっています。
日本でインターネットを使った選挙運動が正式に認められたのは、2013年の参議院議員通常選挙からです。2013年4月に公職選挙法が改正され、、同年7月の参議院議員通常選挙からインターネット選挙運動が可能になりました。この改正により、候補者や政党は公式サイトやSNSを通じて、選挙期間中も積極的に情報発信を行うことが認められました。
ただし、一般有権者が不特定多数に対して電子メールを使って投票を呼びかける行為は、現在も禁止されています。
インターネット選挙運動が認められるようになった背景には、社会の変化と政治参加への関心の低下という2つの要因があります。
まず、日常生活の中でインターネットが当たり前の存在となり、情報の収集や発信の手段として多くの人に使われるようになりました。にもかかわらず、選挙に関してはそれが長らく制限されており、時代とのずれが指摘されていました。
また、特に若い世代の投票率が低迷している現状において、政治に対する関心を呼び起こす新しいアプローチが求められていました。既存の選挙運動だけでは十分に届かない層に対し、SNSなどを通じてより身近な形で情報を届けることが、その一つの方法として検討されたのです。
こうした議論を経て、2013年に公職選挙法が改正され、一定の条件のもとでインターネット選挙運動が認められるに至りました。この改正は、選挙の透明性を高めると同時に、有権者の知る権利を広げる大きな転機となりました。
インターネット選挙運動も含め、すべての選挙運動には実施できる期間が定められています。ルールに違反して期間外に活動を行った場合、罰則が科されることもあるため十分注意しなければなりません。
ここでは、選挙運動が可能な期間と違反時の罰則について確認しておきましょう。
選挙運動が可能な期間は、公職選挙法第129条により「公（告）示日から投票日の前日まで」と定められています。ただし、この期間は選挙の種類によって異なります。たとえば、衆議院議員選挙では12日間、参議院議員選挙や都道府県知事選挙では17日間、町村の選挙では5日間とされており、すべての選挙で一律ではありません。
それぞれの選挙における選挙運動期間は以下の通りです。
|
選挙の種類 |
選挙運動期間 |
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衆議院議員選挙 |
12日間 |
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参議院議員選挙 |
17日間 |
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都道府県知事選挙 |
17日間 |
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都道府県議会議員選挙 |
9日間 |
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指定都市の市長選挙 |
14日間 |
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指定都市の議会議員選挙 |
9日間 |
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市および特別区の選挙（指定都市を除く） |
7日間 |
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町村の選挙 |
5日間 |
インターネットを活用した選挙運動も、この期間内に限って認められます。なお、期日前投票の開始日とは異なり、選挙運動の開始は公（告）示日からとなるため、両者を混同しないよう注意が必要です
選挙運動期間が法律で定められているのは、すべての候補者が公平に有権者へアピールできるようにするためです。
仮に期間外に活動を行えば、他の候補者に対して不公正なアドバンテージが生まれ、公平な選挙が損なわれかねません。こうした理由から、公示日前の選挙運動は「事前運動」として、厳しく制限されているのです。
違反が発覚した場合には、公職選挙法違反として処罰の対象となり、1年以下の禁錮または30万円以下の罰金が科される可能性があります（公職選挙法第239条第1項）。また、悪質なケースでは選挙権や被選挙権が一定期間停止される「公民権停止」の処分を受けるおそれもあるため、選挙運動の開始時期には細心の注意を払う必要があります。
では、インターネットを使った選挙運動では具体的にどのようなことができるのでしょうか。ここからは、候補者・政党・支援者のそれぞれが選挙期間中に認められている行為について解説します。
候補者は、選挙期間中にインターネットを活用して、政策や活動の内容を有権者に伝えることが可能です。
具体的に認められている行為には、以下のようなものがあります。
同意を得ていない不特定多数に対して、選挙運動の電子メールを送信することは禁止されています。発信先の範囲や方法については、公職選挙法上の要件をきちんと確認したうえで、違反のない適正な発信を心がけましょう。
政党も、選挙期間中にインターネットを活用して、自党の政策や候補者情報を有権者に発信することが認められています。組織としての発信力を活かし、幅広い層へのアプローチが可能です。
ただし、有料広告には「表示責任者の氏名・住所」などの表示義務があります（公選法第142条の5）。表示がない広告は違法となるため注意が必要です。
具体的に認められている行為には、以下のようなものがあります。
投票日当日にもLINEを使って情報発信をしたいと考える候補者は多いかもしれませんが、投票日当日は特に注意が必要です。公職選挙法では、投票日当日の選挙運動を原則として禁止しています。以下で詳しく見ていきましょう。
支援者も、選挙期間中にインターネットを使って自身の考えを表明したり、投票を呼びかけたりすることができます。ただし、他者への誹謗中傷やなりすまし投稿などは、公選法や刑法上の処罰対象になる可能性があります。
具体的に認められている行為には、以下のようなものがあります。
一方で、支援者による電子メールでの投票依頼や、候補者や政党ではない一般の支援者が、選挙関連のWeb情報を印刷して不特定多数に配布することは、公職選挙法で禁止されています。
知らなかったでは済まされないので、発信内容や手段については事前にルールを確認し、慎重に行動することが求められます。
ここまででお伝えした通り、選挙運動期間中はインターネットを活用した幅広い情報発信が認められていますが、何をしても良いわけではありません。ネット選挙運動において特に注意すべき禁止事項について、以下で詳しく見ていきましょう。
選挙運動期間中であっても、インターネット上で公開された内容を紙に印刷して配布する行為は、公職選挙法で厳しく禁止されています。
たとえば「この候補者の政策は良いから、みんなに知ってほしい」と考え、公式サイトの政策ページやSNS投稿を印刷して、友人や近所に配る行為は認められていません。これは、公職選挙法第142条が定める「文書図画」に該当し、候補者や政党以外の支援者・一般有権者による配布は原則として禁止されているためです。
印刷物を介して応援や情報紹介を行う行為は、たとえ善意であっても違法となるため、十分に注意が必要です。
なお、配布が認められているのは、選挙運動用ハガキ、ビラ、新聞広告、選挙公報など、法律で明確に定められたものに限られます。これら以外の媒体は、たとえ内容が正当であっても配布することはできません。
すでにお伝えしたとおり、支援者は個人の意思表示として、インターネット上で応援を表明したり落選運動を行ったりすることは認められています。ただし、電子メールを使った選挙運動については、一般の有権者には認められておらず、利用できる主体が法律上はっきりと区別されています。
たとえば、支援者が知人に対して「○○候補者に投票しよう」といった内容のメールを送る行為や、候補者から届いた選挙用メールを転送して拡散することは、いずれも違法となります。メールは閉鎖的かつ一対一の通信手段であるため、誹謗中傷やなりすましなどに悪用されやすいという性質があり、それゆえ厳しく制限されているのです。
「メールなんて個人間のやり取りだから問題ないでしょ」と思われがちですが、公職選挙法ではこれを厳しく禁止しており、違反すれば罰則の対象となる可能性もありますので注意が必要です。
なお、ここでいう『メール』には、通常の電子メール（SMTP）だけでなく、SMS（ショートメッセージサービス）も含まれます。ただし、SNSのダイレクトメッセージ機能は『ウェブサイト等』と見なされ、一定の条件下で使用が可能です。
投票日の午前0時を過ぎると、新たな選挙運動をインターネット上で行うことは公職選挙法により禁止されます。具体的には、候補者のウェブサイトやSNSにおける新規投稿、コメントの追加・いいね、既存投稿の編集・更新などが該当します。投票日より前に投稿したものを削除する必要はありませんが、投票を促す意図をもった新しい発信は一切認められていません。
とはいえ、投票日当日に政治についてまったく触れてはいけない、というわけではありません。たとえば「今日は投票日です」「投票に行きましょう」といった、特定の候補者や政党を示さない一般的な呼びかけや、「投票してきました」という投票済み報告は、選挙運動には該当しないため問題ないとされています。
ただし、選挙関連の投稿は内容によって判断が分かれることもあり、線引きが曖昧な場合があります。誤解を招かないためにも、投票日当日は少しでも選挙運動と誤解される表現を含む投稿は、違反とみなされる可能性があるため、慎重な対応が求められます
インターネット上でのバナー広告などの有料広告は、政党や政治団体に限って認められており、候補者個人が出稿することは公職選挙法により禁止されています。挨拶を目的とした広告も同様に規制の対象です。これは、資金力の差によって情報発信の量や質に格差が生じることを防ぎ、公平な選挙運動を維持するための規定です。
対象となる広告には、検索連動型広告、ディスプレイ広告、SNS広告、動画広告など、形式を問わずすべての有料ネット広告が含まれます。「バナー広告で多くの人に政策を届けたい」と考える候補者もいるかもしれませんが、これは公職選挙法違反となるため、絶対に避ける必要があります。
他の候補者に不利な印象を与える目的で、虚偽の情報を発信することは、公職選挙法上も刑法上も重大な違反です。事実を捏造したり、文脈を意図的に歪めたりして情報を拡散する行為は、選挙の公正を損なうだけでなく、他者の名誉を不当に傷つける結果になります。
たとえば、「○○候補は学歴を詐称している」といった根拠のない内容をSNSやブログで投稿・拡散した場合、公職選挙法第235条の2に定められた「虚偽事項公表罪」に該当する可能性があります。さらに、内容によっては刑法上の「名誉毀損罪（第230条）」や「侮辱罪（第231条）」が適用されることもあります。
インターネットは拡散力が極めて高いため、誤った情報は瞬時に広がり、後からの訂正が困難です。情報の信頼性に確信が持てない場合は、発信を控えるのが賢明です。
候補者やその関係者、支援者に対して、侮辱的な表現や人格攻撃を行う行為は、たとえ事実に基づいていたとしても違法と判断される場合があります。
たとえば、「あの候補者は信用できない」「過去にトラブルを起こしたらしい」といった内容をSNSや掲示板に書き込むことは、相手の社会的評価を著しく低下させる恐れがあり、名誉毀損罪や侮辱罪に問われる可能性があります。これは、実名か匿名かを問わず、法的責任を免れません。
選挙運動においては、賛否を表明する自由がある一方で、根拠なき非難や人格攻撃は厳に慎むべきです。投稿前には、表現が冷静で建設的な内容となっているか、慎重に見直す姿勢が求められます。
選挙権の年齢が18歳に引き下げられたことにより、高校生など若年層の政治参加が注目されるようになりましたが、公職選挙法では「選挙運動に参加できるのは18歳以上」と明確に定められています（公職選挙法第137条の2）。そのため、18歳未満の人が候補者の応援目的でビラを配布したり、SNSで投票を呼びかけたりすることはできません。
さらに、未成年者に選挙運動をさせた場合、その行為を指示・助言した大人が処罰の対象となることもあります。候補者や政党は、意図せず違法行為を誘発しないよう、未成年者を選挙運動に関与させないよう細心の注意を払う必要があります。
インターネット選挙運動を実施する際は、法令を遵守するだけでなく、戦略的かつ効果的な活用が求められます。
ここからは、実際にインターネットを使って選挙運動を行う際に意識しておきたい実務上のポイントについて解説します。SNSの使い方やチームの体制づくりなど、具体的な運用方法を確認しておきましょう。
選挙戦に臨むにあたっては、必ず選挙運動専用のアカウントを作成しましょう。既存の個人アカウントをそのまま使う候補者も多いのですが、過去のプライベートな発言や現在の政治的立場と一致しない投稿が注目され、思わぬトラブルに発展するおそれがあります。
専用アカウントであれば、すべての発信を選挙運動に特化できるため、メッセージの一貫性が保たれます。アカウント名も「○○太郎（△△市議会議員候補）」のように明確に設定することで、有権者にとっても分かりやすく、信頼感のある情報源として認識されやすくなります。また、フォロワーの多くが政治に関心を持つ層となるため、情報発信の効率も高まるでしょう。
ただし、新規アカウントは信頼性の構築に時間がかかるため、選挙告示の直前では十分な運用効果が得られません。できるだけ早い段階から開設し、政治活動としての情報発信を継続しながら、コツコツとフォロワーを増やしていくことが重要です。
選挙期間中にSNSを継続的かつ効果的に運用するには、候補者一人の力では限界があります。街頭演説や政策説明会などで日々の予定が立て込むなか、質の高い投稿を維持するためには、チーム体制での運用が欠かせません。
理想的なのは、「投稿作成」「画像・動画制作」「コメント対応」「投稿の監視・チェック」といった役割を分担し、それぞれの担当者が責任を持って動ける体制を整えることです。
ただし、公職選挙法の規定により、SNS運用を有償で業者に委託することは「報酬を支払って選挙運動を依頼した」とみなされ、買収に該当するおそれがあります。そのため、SNS運用も含めた選挙運動は、ボランティアによる無償協力の範囲で行わなければなりません。
選挙期間中は短い時間で多くの発信が求められるため、事前の準備が成果を大きく左右します。また、有権者からのコメントや質問への対応方針をまとめた「リスク対応マニュアル」を事前に整備しておくことで、予期せぬトラブルや炎上が発生した場合でも冷静に対処することができます。情報発信のスピードと正確性を両立させるためにも、チーム内の連携強化と事前準備を徹底しましょう。
選挙期間中にSNSやウェブサイトを運用する際は、公職選挙法を正しく理解したうえでの対応が求められます。特に複数のスタッフが関与する場合、誰が何を発信しても法令に違反しないよう、ルールを明文化した運用マニュアルをあらかじめ作成し、関係者全員と共有しておくことが重要です。
このマニュアルには、「投稿できる内容」「禁止されている表現」「投稿可能な期間」「コメント対応の基準」などを盛り込み、具体的な事例とともに整理しておくと、現場で迷わずに対応できます。また、誤って違法な投稿を行ってしまった場合の初動対応フローや、責任の所在についても明記しておくと安心です。
スタッフ間で情報発信の基準にばらつきがあると、法令違反や信頼の低下につながりかねません。誰が運用しても一貫性が保たれるよう、実用的なマニュアルを整備し、定期的に内容を見直す体制づくりが求められます。
インターネットを使った選挙運動では、投稿の内容だけでなく、発信するタイミングも大きな影響を及ぼします。いかに質の高いメッセージであっても、見られにくい時間帯に投稿しては効果が薄れてしまいます。そうならないためにも、ターゲットとなる有権者層の生活リズムやオンライン傾向を踏まえ、適切な時間帯を見極めることが重要です。
一般的にSNSの閲覧が増えるのは、朝の通勤・通学前（7〜9時）、昼休み（12〜13時）、そして夜の帰宅後（20〜22時）とされています。これらの時間帯を意識して投稿を行うことで、多くの有権者の目に触れる可能性が高まります。また、特定の曜日やイベント当日の速報性を活かした投稿も効果的です。
選挙期間は限られた日数の中でいかに有権者の目に触れるかが勝負となるため、データや反応を分析しながら、戦略的に投稿のタイミングを調整していきましょう。
本記事では、インターネット選挙運動が可能となる時期や、具体的に認められている行為、禁止されている行為、そして効果的な活用方法について解説しました。
インターネット上での選挙運動は、正しく運用すれば有効な情報発信手段ですが、ルールを誤ると法令違反に直結するおそれがあります。公職選挙法のルールを正確に理解し、候補者・政党・支援者それぞれの立場に応じた適切な方法で活用することが大切です。選挙戦を成功に導くためにも、インターネットの活用方法を今一度見直しておきましょう。
理想的なのは、「投稿作成」「画像・動画制作」「コメント対応」「投稿の監視・チェック」といった役割を分担し、それぞれの担当者が責任を持って動ける体制を整えることです。選挙期間中は短い時間で多くの発信が求められるため、事前の準備が成果を大きく左右します。
また、有権者からのコメントや質問への対応方針をまとめた「リスク対応マニュアル」を事前に整備しておくことで、予期せぬトラブルや炎上が発生した場合でも冷静に対処することができます。情報発信のスピードと正確性を両立させるためにも、チーム内の連携強化と事前準備を徹底しましょう。