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選挙が近づくと、私たちの郵便受けには候補者の「選挙公報」が届けられ、街角にはポスターが張り出されます。そこには、候補者の顔写真と共に、輝かしい学歴、立派な職歴、そして「〇〇を実現」といった力強いスローガンが並びます。
私たちは、その限られた情報の中から「どの候補者に、私たちの街の未来を託すか」という重い判断を下さなくてはなりません。
しかし、もし
その判断の前提となった情報、特に候補者の「経歴」が、真っ赤な嘘であったとしたらどうでしょうか。近年、当選した市長や知事、あるいは国会議員などの政治家が、過去の経歴(特に学歴や職歴)を偽っていたのではないかという疑惑が報じられ、社会的な大問題に発展するケースが後を絶ちません。
有権者の中には「過去の経歴より、今これから何をしてくれるかの方が重要だ」「多少の『盛り』は誰にでもある」と考える方もいらっしゃるかもしれません。しかし、政治家、特に地域の行政トップである「首長」の経歴詐称は、私たちが考える以上に深刻で、多層的な問題をはらんでいます。
それは単なる「個人のウソ」では済まされない、民主主義の根幹を揺るがす重大な裏切り行為であり、法律によって明確に禁止された犯罪行為ですらあるのです。この記事では、選挙ブログを運営する私たちだからこそお伝えしたい、「首長」の経歴詐称がなぜこれほどまでに重大な問題とされるのか、その理由を「法的」「倫理的」「行政運営上」の3つの側面から解説します。
まず、問題の核心に入る前に、「経歴」とは具体的に何を指すのか、そしてそれが選挙においてどのような意味を持つのかを整理します。私たちが候補者を判断する際に見る「経歴」は、主に以下の要素に大別されます。
「〇〇大学 卒業」「〇〇大学院 修了」といった学術的な背景です。
これは、その候補者がどのような知識の基礎を学び、どれほどの知的訓練を積んできたかを示す一つの指標と見なされます。特に難関とされる大学や、専門的な大学院(例:法科大学院、経営大学院)の出身であれば、有権者は「高度な専門知識や分析能力を持っているかもしれない」という期待を抱きます。
「〇〇省(中央官庁) 勤務」「〇〇(大手企業) 役員」「弁護士」「医師」「コンサルタント」といった職業上の経歴です。これは、その候補者がどのような実務経験を持ち、どのようなスキルを培ってきたかを直接的に示すものです。「行政官だったなら即戦力だ」「経営者だったなら行財政改革に期待できる」「法律の専門家なら条例作りに強いだろう」といった、候補者の「能力」を推し量る最も重要な判断材料となります。
「NPO法人を立ち上げ、〇〇問題に取り組んだ」「前職で〇〇のプロジェクトを成功させた」といった、過去の具体的な成果や社会的な活動です。これは、その候補者の関心分野、実行力、そして「本当に口だけでなく行動できる人物か」を判断する材料となります。
「弁護士」「公認会計士」「医師」などの国家資格や、「MBA(経営学修士)」などの学位です。これらは、特定の専門分野における能力を客観的に証明するものです。これらの「経歴」は、候補者自身がどのような人物であるかを物語る「公的なプロフィール」です。私たちは、これらの情報をパズルのピースのように組み合わせ、「この人ならば、知事(市長)として4年間、数十万〜数百万人の住民の生活と、年間数百億〜数兆円の予算を任せられるか」を判断するのです。
次に、なぜ「首長」の経歴詐称が特に重く見られるのか、その前提となる「首長」という立場の特殊性と重さについて、改めて確認します。
日本の地方自治は「二元代表制」という、国の政治(議院内閣制)とは全く異なる仕組みで動いています。
●国(議院内閣制):
国民が「国会議員」を選び、国会議員が「内閣総理大臣」を選びます(間接民主制)。
●地方(二元代表制):
住民が「議会議員」と「首長(知事・市長)」を、それぞれ別の選挙で、直接選びます(直接民主制)。
首長は、議会から選ばれるのではなく、住民一人ひとりから「行政のすべてをあなたに託す」という直接の信任(ダイレクト・マンデート)を受けて誕生します。その結果、首長は企業のCEO(最高経営者)のように、行政組織のトップとして非常に強力な権限を「一人」で握ります。
首長は、その地域における「執行機関」として、以下のような強大な権限を持ちます。
●予算編成権:年間数兆円(東京都)にも及ぶ予算を「何に使うか」を設計する権限。これは首長だけの専権事項です。
●人事権:副知事・副市長や、数千〜数万人にのぼる職員の人事(任命)権。
●拒否権(再議権):議会が可決した条例や予算に対し、「No」を突きつけて審議のやり直しを命じる権限。
これらの権限を行使し、地域のかじ取りを行うのが首長です。その判断一つで、住民の生活は良くも悪くもなります。だからこそ、首長には極めて高度な「能力」と、それ以上に強固な「信頼性(インテグリティ)」が求められるのです。
ここからが本題です。
上記のような「判断材料」であり、「重い権限」の源泉である経歴を偽ることは、なぜ許されないのでしょうか。それには、大きく分けて3つの深刻な問題があります。
第一に、首長の経歴詐称が「公職選挙法」という法律に違反する「犯罪」であるという事実です。「ちょっと見栄を張っただけ」では済みません。公職選挙法 第235条には「虚偽事項公表罪(きょぎじこうこうひょうざい)」という罪が定められています。
公職選挙法 第235条(虚偽事項の公表罪)
当選を得させ、又は得させない目的をもって公の職にある者、公職の候補者(中略)に関し虚偽の事項を公にし、又は事実をゆがめて公にした者は、二年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金に処する。
この法律がなぜ存在するのか。それは、選挙の公正を歪める行為だからです。
有権者は、候補者の経歴、政見、政策といった情報(選挙公報やポスター、演説など)を比較検討して投票します。この「比較検討」というプロセスこそが、民主主義の根幹です。もし、この判断材料に「虚偽(ウソ)」が混入していれば、有権者は騙された状態で投票することになり、選挙はもはや公正とは言えません。
例えば、「私はハーバード大学で経営学を学び、行政改革のプロです」と公言する候補者Aと、「私は地元の大学を卒業し、市役所でコツコツと働いてきました」と公言する候補者Bがいたとします。
有権者が「Aさんの方がグローバルな視点と実行力がありそうだ」と判断してAさんに投票した結果、Aさんが当選したとしましょう。しかし当選後、Aさんがハーバード大学に行った事実などなく、実際には高卒で職を転々としていたことが発覚したらどうでしょうか。
有権者は「そんな経歴ならBさんに入れたのに」「騙された」と感じるでしょう。これは、有権者の「正しく選択する権利」を奪う行為であり、民主主義のプロセスそのものへの冒涜(ぼうとく)です。
■ 罰則は「当選無効」と「公民権停止」
この「虚偽事項公表罪」で有罪が確定した場合、単に罰金や懲役を科されるだけではありません。政治家として「死刑宣告」とも言える、極めて重いペナルティが待っています。
当選の無効
ウソの経歴によって当選したことが明らかになれば、選挙違反として「当選無効」の訴えが起こされ、当選が取り消される可能性があります。
公民権の停止
禁錮以上の刑が確定した場合、あるいは悪質な選挙違反と認められた場合、一定期間「公民権(選挙権と被選挙権)」が停止されます。つまり、選挙に立候補することも、投票することすらもできなくなるのです。このように、経歴詐称は「倫理」の問題である以前に、選挙の公正を守るために定められた法律を破る、明確な「犯罪行為」なのです。
第二に、法律以前の倫理的な問題として、経歴詐称は「全住民に対する詐欺であり、裏切り行為」です。首長の任期は4年間です。私たちが知事や市長を選ぶ選挙は、「私たちの街の未来4年間」と「年間数千億円の税金」の運用を、一人の人物に託すという「契約」を結ぶ行為に他なりません。
民間企業が、CEOを採用する場面を想像してみてください。履歴書に「スタンフォード大学MBA取得、マッキンゼー(大手コンサル)出身」と書かれていた人物を採用したのに、後からそれが全てウソだったと判明したらどうなるでしょうか。
その人物は、即刻「解雇」されます。なぜなら、採用の前提となった「能力」や「信頼性」の担保が全て崩れたからです。これは「詐称」であり、民事上の「詐欺」に該当し得ます。地方自治も全く同じです。
住民(株主)が、首長(CEO)を選ぶ際に提示されたプロフィール(履歴書)が虚偽であったならば、それは住民の信任を土台から覆す「裏切り」です。首長という職務は、その権限の強大さゆえに、「あの人が言うことだから信じよう」という住民からの人格的な信頼(信託)がなければ成り立ちません。
「税金を上げるが、未来への投資として必要だ」
「災害時、私の指示に従って冷静に行動してほしい」
こうした首長からの要請に住民が従うのは、首長への信頼があるからです。その信頼の入り口である「私はこういう人間です」という自己紹介(経歴)で嘘をついた人物が、どうして「私の政策を信じてください」「私の指示を信じてください」と言えるでしょうか。
経歴詐称は、首長として最も重要な資産である「住民からの信頼」を、自らドブに捨てる行為なのです。
第三に、そして最も実害として深刻なのが、経歴詐称が発覚した後に引き起こされる「行政運営の完全な停滞」です。首長の経歴詐称疑惑が発覚すると、その瞬間から、その自治体の行政は事実上「麻痺」します。
1. 議会との全面対決(政策のストップ)
二元代表制において、首長の「アクセル」役に対し、議会は「ブレーキ」であり「チェック」役です。首長が提案する予算案や条例案は、議会が可決しなければ一切実行できません。首長に「ウソつき」という致命的なスキャンダルが発覚した場合、議会(特に野党)がそれを放置するはずがありません。
議会の本会議や委員会は、本来の政策論争(例:子育て支援、防災対策)の場ではなく、「首長の経歴疑惑を追及する場」へと変貌します。
●「首長!本当に卒業したのか、卒業証書を提出しなさい!」
●「疑惑が晴れるまで、一切の議案の審議には応じられない!」
議会は「百条委員会」という強力な調査権を発動し、首長を追いつめることも可能です。
こうなると、首長が提案した重要な予算案や、住民生活に必要な条例案の審議はすべてストップ。本来進むべきだった街づくりが、首長個人の疑惑によって人質に取られた状態になります。
2. 職員の士気崩壊とリーダーシップの失墜
行政を動かすのは、首長一人ではなく、その下にいる何千、何万人という職員(公務員)です。職員は、首長が示すビジョン(政策)を信じ、それを実行するために働いています。
そのトップである首長が、経歴を偽って当選していたと知った時、職員たちの士気(モチベーション)はどうなるでしょうか。
「あんなウソつきの指示で、なぜ私たちが汗を流さなければならないのか」
「住民から『お前たちのトップは詐欺師だ』と罵倒される」
組織のトップへの信頼が失われれば、組織は内側から崩壊します。首長が「新しい改革を実行するぞ!」と号令をかけても、職員たちは「どうせそれもウソだろう」「こんな状況で改革どころではない」と、誰も本気で動かなくなります(=面従腹背)。リーダーシップは完全に失墜し、行政サービスは質・スピード共に低下します。
3. 対外的な信用の失墜
首長の仕事は、役所の内側だけではありません。国の省庁と渡り合い、補助金や交付金を獲得してくること。近隣の自治体と協力し、広域的な課題(例:医療、防災)に取り組むこと。トップセールスとして、企業を誘致し、雇用を生み出すこと。
これらすべての「対外的な交渉」は、首長個人の「信用」と「実行力」が担保となります。
経歴詐称のスキャンダルで全国的なニュースになった首長と、国や他県の知事、大企業のトップが、真剣な交渉のテーブルについてくれるでしょうか。「あの自治体はトップが混乱している」と見なされ、あらゆる交渉で不利な立場に立たされます。
結果として、本来得られたはずの補助金、本来実現できたはずの連携、本来誘致できたはずの企業をすべて失うことになります。この行政的・経済的な損失は、計り知れません。
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首長(市長・知事)による経歴詐称が、なぜこれほどまでに重大な問題なのか。その答えは、それが「個人の小さなウソ」ではなく、私たちの社会の仕組みそのものを破壊する、多層的な問題を含んでいるからです。
1.【法的な問題】
有権者の判断を誤らせ、選挙の公正を害する「公職選挙法違反(虚偽事項公表罪)」という明確な犯罪であること。
2.【倫理的な問題】
住民の信任(信託)を裏切る「詐欺」に等しい行為であり、首長という職務に不可欠な「信頼性」を根本から破壊すること。
3.【行政運営上の問題】
議会の追及による政策の停滞、職員の士気崩壊、対外的な信用の失墜を招き、結果として全住民が不利益を被ること。
経歴とは、その人物が積み上げてきた「過去」であると同時に、私たちが「未来」を託すための判断材料として差し出された「公的な資産」です。それを偽ることは、その代償として、自らの政治生命、議会の時間、職員の意欲、そして何よりも住民の信頼と未来を失う、あまりにも割に合わない行為です。
私たち有権者もまた、「有名大学卒だから」「大手企業出身だから」といった「経歴」の響きだけに惑わされることなく、その候補者が本当に信頼に足る人物なのか、その実績や政策に実態があるのかを、厳しく見抜く目を養い続ける必要があります。